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「ここまでやらないとレビューサイトからお店を守れない」“変態料理人”稲田俊輔が食べログを攻略した周到すぎる方法

稲田俊輔さんインタビュー#1

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「情報も食べられるなら食べないともったいないじゃないですか」

稲田 「こいつに何か言ってやろう」という人に見つかった時でも、下手に手を出した人の方が怪我をするような言い方にしておくんです。「迂闊にツッコんだらツッコみ返されるのわかるでしょ?」という罠を仕掛けて。

――そんなことを考えていたんですね。

稲田 めちゃくちゃ考えてますね。でも拡散がさらに進むと、その2段構えに気づかずにツッコんでくる無敵の人たちが現れてしまって、そうなると大変なので最近はなるべく拡散もされすぎないようにバランスを考えたりします。

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――「ツッコみ返されそうな罠」って、たとえばどんなものでしょう。

稲田 僕は食べ物の文化的な由来や伝統的な食べ方、いわゆる「正しい食べ方」みたいな話題の時は「ロマン」っていう言葉を使うようにしてます。それは、「伝統文化」とか「オーセンティック(≒本物)」みたいな言葉を使って意味を限定してしまうと、その価値観に共感しない人が違和感を持ってしまうから。だから有機栽培とかオーガニックのことを「ロマン」だと思う人もいるし、あるいはミシュランに載ってることを「ロマン」と表現する人もいるだろうし。だから解釈の幅を残してあえてふわっと「ロマン」にしておくんです。

――わざと広く。

稲田 まぁ僕がオーガニックやグルメガイドの評価にそこまで興味がない、っていうことは見てる人には伝わっちゃってると思いますけどね。それでも、わざわざ書く必要はないかなと。

©三宅史郎/文藝春秋

――SNSで時々話題になる「ラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ」問題(食べ物の味だけを味わう方が純粋か、蘊蓄や能書きを含めて楽しむか、という争い)の時も稲田さんは「ロマン」という言葉で「蘊蓄も楽しい」という主張をされていました。

稲田 僕個人は完全にそっちですね。だって味だけより、情報も食べられるなら食べないともったいないじゃないですか。2倍楽しめるんですよ?

――(笑)。ただ論争的な話題には触らない、という人も増えていますよね。「●●が嫌い」とも言うのに躊躇します。

「自分が好きな料理を好きじゃない人の話を聞くのが大好き」

稲田  それで言うと僕は、食べ物の好き嫌いに関してはもっとみんなカジュアルに言えた方がいいと思ってるんです。というのも僕自身は、自分が好きな料理やレストランを好きじゃない人の話を聞くのが大好きなんですよ。

©三宅史郎/文藝春秋

――それはどうしてでしょう?

稲田 アイデンティティって「自分と他人の違うところ」じゃないですか。だから、自分が好きなものを嫌いな人がいたり、自分が苦手なものを好きな人がいるのは僕にとってはすごく大きな意味があって、価値観が違う意見に出会えば出会うほど自分のことがわかって楽しいんです。それでも最近は、昔より控えるようになりましたけど。