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“治りにくい”肺がん手術の現在 「集学的治療」が欠かせない

2018/07/10
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「胸腔鏡補助下手術」のメリット

 さて、がんが一か所にとどまり、リンパ節転移がないか、あっても腫瘍周辺部に留まると判断された場合には、積極的に手術が検討されることになる。手術方法には大きくわけて、「開胸手術」と「胸腔鏡手術(VATS)」の2つがある。

 開胸手術は、切除する側の肺が上になるよう横向きに寝た状態で、脇腹のあたりを切り開いて行われる。以前は、30センチほども切り開き、肋骨を切り離したり押し広げたりするため、神経や筋肉を損傷して、術後に痛みが残ることが少なくなかった。

 そこで1990年代頃から、肺がん手術にも胸腔鏡手術が普及しはじめた。胃がんや大腸がんの腹腔鏡手術と同様、3、4か所開けた穴から専用の細長いカメラや手術器具を挿入して、モニターに映る胸の中の肺の様子を見ながら手術する方法だ。

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 胸腔鏡手術には、傷が小さく、術後の痛みが少なくて済むという以外に、拡大視できるので、細かい血管や神経を確認しながら手術できるメリットがある。ただし、手術器具の操作に熟練が必要なうえ、術野を肉眼で観察できない、患部を手で触れないといったデメリットがある。

 そのため、すべてを胸腔鏡だけで行う「完全モニター視下手術」には、懐疑的な呼吸器外科医が少なくない。この手術にこだわる医師もいるが、「確実に腫瘍とリンパ節が切除できるのか」「大きな出血をしたとき、すぐに対応できないのでは」といった疑問の声もあがっていた。そこで近年は両方の長所を生かし、開胸手術でありながら、内視鏡カメラを補助的に使う「胸腔鏡補助下手術」が広く行われるようになった。

 開胸手術に分類される手術でも、胸腔鏡を補助的に使うことで、十数センチの傷で手術できることが多くなった。そうしたこともあり、「がんを取り出す穴から直接見たり触ったりして確実に切除することが大事で、完全モニター視下手術にこだわりすぎるのは危険。患者にはまったくメリットがない」と言う呼吸器外科医が少なくない。

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 また、進行がんで肺を大きく切り取り、周囲の臓器や組織も広範囲に切除しなければならない場合には、大きく開胸する必要がある。したがって、胸腔鏡か開胸かにこだわるよりも、病状に応じた方法で、かつ執刀医が得意とする手術を選択するのが適切だろう。