肺がんは集学的治療が欠かせない
肺がんでは胸を開ける傷を小さくするだけでなく、肺自体の切り取る範囲も小さくする工夫がされてきた。
肺は右側が3つ、左側が2つの「肺葉」と呼ばれる部分に分かれている。肺がんの手術は片肺をすべて切除するか、病変のある肺葉を切除するのが標準的だ。しかし、肺を大きく切り取ると、当然、息を吸う能力(呼吸機能)が低下する。そこで、早期の小さながんの場合には、肺葉より小さな区分を切り取る「区域切除」や、肺の外側を部分的に切り取る「部分切除(楔状切除)」と呼ばれる手術が行われるようになった。これを「縮小手術」と呼ぶ。
縮小手術には呼吸機能を維持するためだけではなく、肺がん患者は肺に別のがんが見つかることが多いので、手術できる余地を残しておくという意味もある。とくに高齢の喫煙者は複数の肺がんができやすい。また、若年の非喫煙者も、遺伝的な因子で肺に複数のがんができることがあるので、縮小手術が意味をもつ。
ただし、区域切除は通常の肺葉切除に比べて、技術的に難しいとされている。また、縮小手術にこだわるあまり、根治性がおろそかになっては本末転倒だ。したがって、区域切除や部分切除を提案された場合にも、執刀医の経験数や根治性、安全性について十分説明を聞いて、納得してから受ける必要があるだろう。
一方、がんが進行していると通常は手術できない。ただ腫瘍周辺のリンパ節や周囲臓器に飛んだ病巣まで完全に取り除くことができ、かつ大きな手術に耐える体力があると判断される場合は手術が検討されることがある。これを縮小手術とは逆に「拡大手術」と言う。
肺がんの拡大手術では、肺葉や周囲のリンパ節を取り除くだけでなく、気管支、胸壁、心膜、大動脈、大静脈、横隔膜などの一部も切除する場合がある。そのため、これらの臓器・組織をつなげ直したり、人工の管に置き換えたりする再建手術も必要となる。
こうした手術には、呼吸器外科だけでなく、心臓血管外科、形成外科などの協力が不可欠だ。さらに進行がんでは、術前に抗がん剤治療や放射線治療を行って、がんを小さくしてから手術する場合もある。これには、呼吸器内科医または腫瘍内科医、放射線治療医の協力も必要となる。
そもそも肺がんは、手術できたとしても、それに加えて抗がん剤治療や放射線治療が必要になることが少なくない。また、体力的に手術は負担が大きいと判断される高齢者などの場合は、放射線を中心とした治療が検討されることもよくある。
したがって、肺がんを治療する場合は、手術の実績があるだけでなく、呼吸器外科と他科とが連携する「集学的治療」ができる協力体制が不可欠だ。とくに拡大手術を受ける場合には、がん専門病院ではなく、心臓血管外科や形成外科がそろっている大学病院でなければ難しい。このような特色も見極めたうえで、医療機関を選ぶことも大切だ。
出典:文春ムック「有力医師が推薦する がん手術の名医107人」(2016年8月18日発売)