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ですから、上司は「責任を取る」と言うなら、意味を明確に定義しなければ、その言葉は若手社員の耳には空疎に響くだけになります。意味さえ曖昧なまま使い方を間違えると、先述の通り上司としては「最悪のNGワード」ということになります。

「自分で選んだらいいよ」と言うほうが誠実

今の時代、究極的には上司であっても責任など取れないことが多いものですから、相当な覚悟があるのでなければ軽々しく「責任を取る」などと言うべきではない、というのが私の意見です。

星野監督のような器の大きな人間に憧れるあまり、つい、自分の責任担保能力の範囲を超えて「責任を取る」と言ってしまいがちですが(実は私もそうです)、それは悪く言えば「騙(だま)し」になりかねません。

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そうなるくらいであれば、若手から「頼りがいのない上司」「格好悪い上司」と見られても、「最後は君が責任を取るのだから、自分で選んだらいいよ」と言うほうが誠実ではないでしょうか。「ただ、そのための協力はいくらでもするから」と付け加えることは忘れずに。

指示を出すことに責任を持つ

実際、冒頭の調査で新入社員が上司に期待することの1位は「的確な指示をしてくれること」でした(44.4%が支持)。「責任を取る」に近い「面倒見の良さ」は、低いわけではありませんが5位です(25.0%が支持)。

この調査結果を踏まえて想像するに、若手が上司に対して感じていることは、「責任を取るとか取らないとかよりも、ちゃんと的確に指示をしてくれるほうがうれしい」ということではないでしょうか。「責任を取るから言うことを聞け」ではなく「納得がいくまで丁寧に説明をし、指示を出すことに責任を持つ」ことが求められているのです。

これからの時代、上司は度量さえあればいいというわけではなく、部下が自分自身で行動を選べるようにサポートをするタイプのほうが喜ばれるのかもしれません。

【コーナーまとめ】
・今や「自由と自己責任」が日本の企業社会の常識。
・「失敗しても私が責任を取る」ことは事実上、不可能なので言ってはいけない。
・部下が上司に求めているのは「納得がいくまで丁寧に説明をし、指示を出すことに責任を持つ」こと。

曽和 利光(そわ・としみつ)
人材研究所 代表取締役社長
1971年、愛知県豊田市出身。灘高等学校を経て1990年に京都大学教育学部に入学、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にゼネラルマネージャーとして活動。後にオープンハウス、ライフネット生命保険など多種の業界で人事を担当。2011年に人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。