1ページ目から読む
4/4ページ目

「血液が両手の指の間から大量に溢れ出してくる」

 同時に深い傷になっていた右の胸を止血したり、心臓マッサージをした。

「止血処置をしようと両手で傷口を押さえて、血液が出ないようにしていました。血液は水と違って粘り気があり、温かみがあります。その血液が両手の指の間から大量に溢れ出してくる状態でした。肋骨の切断面に触れましたが、傷口は強引に切った感じがしました。大量の血液で、付近のアスファルトの色が暗い色にだんだん変わっていくのがわかりました。その感覚は、普段講習でやっている人形のものとは全然違って、今でも手のひらに鮮明に残っています」

事件から14年後の6月8日に現場付近で手を合わせる西村さん

 西村さんが救命処置の現場に遭遇するのは初めてではなかったが、ここまでの凄惨な現場は初めてだ。

ADVERTISEMENT

「その男性に最初に触れた時には体温があったんです。でもだんだん、端っこから冷たくなっていく感じがあり、それがものすごく辛かった。その後AEDが到着したんですが、出血量が多すぎてパットが貼り付けられず、結局AEDは使えませんでした」

 西村さんを含めて4人の医療従事者が救命作業にあたっていたが、誰ひとり知り合い同士ではなかった。

「お医者さんと看護師さんと救急救命士さんがいました。3人とも通りすがりで、お互いに知らないもの同士だったと思います。全体の指示は人工呼吸にあたっているお医者さんがしていましたが、みんなが『私これやります』『これやってください』という感じで分担していました。その場で、本当に即席でしたが、それぞれが声に出して状況を共有しながら、チームとして動いていました」

 

 周辺の消防署の救急車は出払っていたようで、救急車の現場到着には時間がかかった。

「3人目の男性のところに救急車が来たのは13時ごろだったと思います。しかし30分とは思えない、長く長く感じる時間でした。1人目と2人目は助かるだろうと思っていましたが、3人目は正直厳しいかもしれないと感じていました。それでも、その場でできる処置はしてあげたいと思っていました。助からないとしても、ご家族の方がお別れをいえる状況だけは作りたいと思ったんです。それが叶ったかどうかはわからないんですけど……」