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「近くにいた女性が素手で男性の止血をしていましたが…」

「救急隊の専門用語で傷病者に最初にあたることを『接触』といいます。1人目の方と接触し、処置を始めました。警察官に『何かあったんですか?』と聞くと『もういいから、行ってください』と言われたので、『救急医療の民間資格を持っているんですが、処置に当たっていいですか?』と聞きました。すると対応が変わり、『お願いします』と言われました」

 西村さんは普段から人工呼吸用のマスクとゴム製の手袋を持ち歩いていた。警察官の承諾を得て、処置を開始した。

事故現場の交差点には毎年花が供えられている

「手袋を両手にはめ、倒れている男性に『どうされたんですか?』と聞くと、男性は『後ろから刺されました』と。そこで初めて事件だとわかり驚きましたが、それでもけがの状況を見なければなりません。見ると背中が刺されている状態で、出血量もかなり多い。近くにいた女性が素手で男性の止血をしていましたが、血液から感染する可能性があるので、『手で触らないようにしてください』と伝え、私が止血を代わりました」

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 周囲の人に「手袋代わりにするのでビニール袋の提供をお願いできますか」と頼むと、近くにあった店舗の人が持ってきてくれたという。

「近くにいた女性2人が手伝ってくれて協力して止血を続けたのですが、男性は呼吸状態が安定せず、回数も多かったので、救急車の到着を待つしかないと感じました。手伝ってくれた2人の女性はおそらく男性の家族だったのだと思います」

「私以外にこの場に医療従事者はいないのだな」

 西村さんが処置を続けている間、野次馬は増え続けたが、他に手伝ってくれる人は現れなかった。それどころか携帯電話で写真を撮る様子も見え、西村さんはプレッシャーを感じたという。すると「他にもけが人がいます」という声が聞こえた。

事件現場を群衆が遠巻きに囲み、携帯電話で撮影していた ©時事通信社

「声が聞こえた方向に向かって、『けがの状況を教えてください。意識レベルはどうなっていますか?』と聞きました。しかし返事は『意識レベルってなんですか?』。そのため、私以外にこの場に医療従事者はいないのだなと分かりました。1人目の男性の方に『すみません。他にけが人の方がいますので、その方のところに行きます』と説明した上で、次のけが人を探しました」