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「辛かったのは、トリアージの判断を自分1人でしなければいけないこと」

「過去にも電車の中で倒れた人を介抱したことはあったのですが、その時は意識もありましたし、命に関わる状況ではありませんでした。しかし秋葉原では、同時に複数の人を見なければいけなかったうえに、刃物の傷なので命に関わります。

 何より辛かったのは、トリアージ(治療の優先度を決めること)の判断を自分1人でしなければいけないことでした。その人が助かるのか、誰を後回しにするかを判断するのはとても怖いことで、すごく精神的な負担になりました。なので後にテレビ報道で、2人が助かったことを知った時は本当にほっとしました」

西村さんが最初に2人を治療した路地

 しかし西村さんが治療に当たった3人目の男性は、残念ながら亡くなっていたことが後にわかった。

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「テレビ報道で、3人目の男性が亡くなっていたことを知りました。さらに事件当時、トリアージにミスがあったという報道もありました。私自身も目の問題もあり、混乱した現場で自分が把握している情報をちゃんと伝えられたとは言えません。ミスのニュースを読んで、『自分がミスをしたのではないか』と不安になり、辛かったです。事後検証が行われていることも知らず、後から知りました。なので私はヒアリングを受けていないんです」

「『もう二度と救命なんかやらない』って思うこともあります」

 これらのトリアージの経験の精神的な負担からか、西村さんは事件後に頻繁に悪夢を見るようになった。

「当時のことに関連する夢は今でも見ます。例えば街中を歩いていて、倒れている人が何人もいるという夢だったり、救命活動をしているときに傷口からあふれた血が自分の手に触れる感覚が蘇る夢だったり。血液の臭いを感じる夢もあります」

秋葉原では今も6月8日になると花が供えられている

 16年がたった今も、心の整理ができていないという西村さん。そんな思いをしているのは自分だけかもしれないと孤独感に襲われることもあるという。

「こうした辛い気持ちから、『もう二度と救命なんかやらない』って思うこともあります。事件後に休学して地元に帰りましたが、たまたま市の広報誌で、応急手当てを市民に教えるためのボランティア団体ができたことを知りました。それでしばらく考えて、市民の方に応急手当てを教える資格を取り、市民に教える活動にも参加しました」

 さらに事件当時の経験を研修で話すこともあった。