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月収約33万円、残業は基本的にナシだが…「物価は高い」27歳保育士が実感した“キラキラ”だけじゃない海外移住のリアル

『ルポ 若者流出』より#2

genre : ライフ, 社会, 読書

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居心地の良い場所、ここで働く執念

 2022年末、移民局から永住権について「承認」の連絡があった。今の職場で働きはじめた頃に申請していたもので、1年以上待ち続けた。永住権を取るとカナダ人と同等の条件で行政サービスを受けたり、働いたりできる。

「永住権を申請している間は職場を変えられないんです。働く先がここしかないって呪縛みたいだねと友だちと話したことがあります」

 日本を出るとき、カナダで保育士として生きていくと覚悟を決めた。カレッジではカナダ人の数倍も高い学費を払って保育士の資格を取り、英語の環境でもまれてがんばってきた。

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「永住権を申請したのは、『カナダが大好き』という理由よりも、今、日本に帰ってわたしになにができるのかという葛藤と、カナダで保育士として働くことへの執念があるんだと思います」

 それに、カナダで暮らすことに居心地の良さも感じている。カナダには多様な文化的、民族的背景を持つ人々が暮らす。ここで暮らすうちに、自分が正しい、当たり前だと思っていたことはそうではないと気づくこともあった。美の基準だって人それぞれだ。日本では自分の容姿を卑下して笑いを取ろうとすることもあった。

 まどかさんは言う。

「自分を大切にしながらも、ほかの人と関係性を築いていくっていうやり方をカナダに来て学んだ気がする。子どもだからとか、女性だからとかそういう固定された価値観で人を評価しないカナダは、わたしにとって居心地がいい場所。ここに来てもっと自分を大事にしようと思えるようになった」

 自分の選んだ道を自問自答しながらも、故郷から遠く離れた国で新社会人としてのスタートを切った。海外で暮らすことは楽なことばかりではないが、まどかさんの表情に後悔はない。これからもカナダで自らの道を切り開いていくつもりだ。

ルポ 若者流出 (朝日新書)

ルポ 若者流出 (朝日新書)

朝日新聞「わたしが日本を出た理由」取材班

朝日新聞出版

2024年5月13日 発売

月収約33万円、残業は基本的にナシだが…「物価は高い」27歳保育士が実感した“キラキラ”だけじゃない海外移住のリアル

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