海外に拠点を移し、永住権をとった日本人は過去最高水準に達している。近年では、子供により良い教育を受けさせるために日本を出る親たちも増えているという。
ここでは、海外移住を選んだ若者や親たちへのインタビューをまとめた『ルポ 若者流出』(朝日新聞出版)より一部を抜粋。大手通信会社を退職し、妻と5歳の娘を連れて海外移住したアキフミさん(42歳)。「日本の教育に不安があった」という彼が、移住先にマレーシアを選んだ理由とは――。(全4回の3回目/最初から読む)
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東南アジアの常夏の国、マレーシア。より良い教育環境を求め、日本から移住する日本人家族や単身留学する学生の姿が目立つ。欧米への留学に比べて日本からの距離が近く、物価も比較的安い。さらに、この国が持つ「多様性」も多くの日本人を惹きつけている。
東京都在住だったアキフミさんもその一人だ。2022年6月、大学院を卒業後、約16年間勤めた日本の大手通信会社を退職し、妻(31歳)と長女(5歳)を連れて首都クアラルンプールに移住した。
目的は子どもの教育だ。日本で公立保育園に通っていた長女は現在、学費が年に200万円弱かかるインターナショナルスクール(以下、インター)に通う。
「少子高齢化で日本の経済が縮んでいくのは明らか。娘が大学を卒業する頃にはいい仕事や産業は少なくなると思う。娘が自立したときに日本で働きたいと思うのであれば日本でもいいが、海外でも働ける能力を身につけさせたかった」
夫婦ともに過去に海外に留学したり、住んだりした経験はなかった。ただ、子どもが生まれたとき、夫婦でどんな風に成長してほしいかを話し合った。「自分で生活できる力」や「自分で考え、決断する力」「英語で自分の意見を言う力」など10項目にまとめていた。
日本の教育には不安を感じていた。自分の学生時代を振り返ってみても、無理やり暗記して、その後はほとんど使わない受験知識が多かった。社会に出てから向き合う問題に答えがあるとは限らない。だからこそ、自分の頭で物事を考えて、意見を主張し、相手を説得する力が必要だ。今の日本の学校教育でそんな能力は身につくのだろうか。