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「中田敦彦のシンガポール移住に刺激を受けた」子どもを単身留学させる家庭も…教育のために“海外移住”を決めた親たちのホンネ

『ルポ 若者流出』より#3

genre : ライフ, 社会, 読書

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 移住から半年が過ぎた。生活しづらいところももちろんある。歩道に段差が多く歩きづらいし、虫が多く、街中には不衛生なトイレも少なくない。世界でも治安が良い国とされる日本に比べれば安全面も不安だ。

 日本の外務省が公表している「マレーシア安全対策基礎データ」(2023年9月8日更新)によると、2022年のマレーシアの強盗届出件数は4589件で、発生率(人口10万人あたり)は日本の約15倍にのぼる。誘拐のリスクもあるため、子どもの外出時は親が付き添うのが普通だ。

「近くの公園に行くだけでも親が必ず付き添います。通学のときは一般的にスクールバスを利用するか、親が送っていくことが多いです」

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 それでも、長女の大学進学まではマレーシアにとどまるつもりだ。娘にはマレーシア国内に限らず、好きな大学に行ってほしい。その後、夫婦で日本に帰るかはわからないと言う。アキフミさんはこうつぶやく。

「日本の経済の未来が明るかったら、受けられる教育に満足できていたら、移住することはなかったと思う」

母子で移住、多様性も学ばせたい

 母子で移住するケースも増えてきた。

 2023年2月、東京から一組の日本人家族がマレーシアにやってきた。4歳の娘が通うインターを選ぶためだ。日本でプリスクール(注:英語主体で保育を行う未就学児向けの施設)に通う娘が卒園する来春、母子で移住する計画だという。

 留学エージェントの案内で、マレー半島最南端にある街ジョホール・バルの学校を視察後、クアラルンプールの近郊に移動してきた。

 この日、まず訪ねたのは国際的な教育カリキュラム「国際バカロレア(IB)」の認定校だ。探究型の学びで批判的思考などを身につけるもので、最終試験で一定の成績をおさめると国際的に通用する大学入学資格が得られる。

 学校職員らは「IBのインターのなかでは手頃な価格で最高の教育を提供しています」と家族にカリキュラムを一通り説明した後、教室や食堂など校内を案内して回った。

 会社を経営する父親(35歳)は、「日本は経済が停滞し、人口減少も進んでいる。娘には日本にとどまらず、世界でチャレンジできる力を身につけてほしい」と話す。