文春オンライン

月収約33万円、残業は基本的にナシだが…「物価は高い」27歳保育士が実感した“キラキラ”だけじゃない海外移住のリアル

『ルポ 若者流出』より#2

genre : ライフ, 社会, 読書

note

 海外に拠点を移し、永住権をとった日本人は過去最高の57万4千人にものぼる。さらに、看護師や保育士、教員など、人手不足が叫ばれる職種に就いていても「海外で働く」道を検討する人が増えているという。彼らは何を求めて海外へ飛び出すのだろうか。

 ここでは、海外移住を選んだ若者たちへのインタビューをまとめた『ルポ 若者流出』(朝日新聞出版)より一部を抜粋。「新卒」という切符を捨て、大学卒業後にカナダで保育士になった、まどかさん(27歳)の事例を紹介する。(全4回の2回目/最初から読む

©maroke/イメージマート

◆◆◆

ADVERTISEMENT

 自分が輝ける場所が日本にあるとは限らない。海外の暮らしをより身近に感じられるようになった今、若者の間でこの認識は広く浸透している。

 九州出身のまどかさんは今、小学生の頃から憧れていた保育士として、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のデイケアで働いている。11月中旬、窓の外には雪景色が広がる。

 2019年に日本の大学を卒業後、カナダの公立カレッジに進学。そこで保育士の資格を取った。

 日本で保育士になる、という選択肢は頭になかった。

「日本の保育士は残業が多く、お給料も少ないとか、ネガティブな情報を耳にしていた。日本で働くということは考えなかった」

 カナダで保育士として働く日本人の友人らもこう言う。

「プライベートより仕事を優先して長時間働く日本では、保育士でなくても働きたくない」

 西日本にある高校を卒業後、東京の大学に進んだ。保育士を目指す専門学校ではなく大学に進んだのは、「視野を広げたら」という両親の助言があったからだ。サークル活動で保育園などを訪ねるうち、日本だけでなく海外の幼児教育に興味が広がった。

 大学2年生のときにカナダの保育施設で2週間のボランティア活動に参加。自分が本当に海外で保育士になりたいのか確かめるため、翌年から1年間はカナダに私費留学した。

 留学中、印象的だったのは子どもを尊重するカナダ社会の姿だった。「子どもはわたしたちの未来」と子どもへの投資を呼びかけるメッセージが大きく掲げられた街。カレッジの授業でも、子どもたちへのポジティブな言葉がけや、子どもの興味関心に沿って柔軟に保育内容を変えることなども学んだ。日本の保育現場で働いた経験はなかったが、カナダで保育士になる思いが膨らんだ。私立カレッジで保育士アシスタントの資格を取って、帰国した。

 カナダで保育士になるという計画を両親に打ち明けたとき、両親は金銭的な詰めの甘さを指摘し、当初は反対したという。カレッジの学費はバイト代で賄える計算だったが、生活費を合わせると留学費用は足りなかった。留学に必要な費用と保育士になって得られる収入を見積もり、両親への返済計画と一緒に示した。娘の本気度を知った両親は、最終的に不足している費用を出し、背中を押してくれた。