杏を河合優実さんが演じてくれることになって、彼女と一緒に杏がどんな女性だったのかを見つけてみたいという気持ちになりました。
──河合優実さんの起用はどの段階で決まったんですか。
入江 脚本を書き始めてすぐでした。「河合優実さん、どうですか」って言われて、それは素晴らしいですねと。彼女が世間に知られる前から演技を見て知っていたので。
脚本を書く過程で、単純な悲劇にしてはいけない、もっと杏の多面性を見せたいと考えていたところでした。どんなことに喜びを感じていたのか、通い始めた学校は楽しかったのか。河合さんとは杏が生きた足跡を尊重しようという話をしました。
杏はどう振る舞うか、どんな表情をするだろうか
──作中で描かれる杏という女性の造形は、コロナ禍が沈静化してもなお困難に直面する女性たちの集合体のようなイメージでしょうか。
入江 最初はそうだったんですけど、作ってるうちにどんどんパーソナルな方に想像力を働かすということになりました。
想像するしかないんですけど、杏はどう振る舞うか、どんな表情をするだろうか、みたいなことを考えながら撮った感じですね。それは同じ社会に生きる他者のことを考えるというプロセスになりました。
河合さんがその一つひとつに真摯に向き合ってくれて、すごく豊かな時間になったんです。母親役の河井青葉さんも交え、ワークショップみたいなことをしながら少しずつ脚本を直していきました。
突破力のある佐藤二朗、自身の感情を託した稲垣吾郎
──刑事役の佐藤二朗さんの存在感も独特でした。人の滑稽さを表現しつつも、その存在感で物語が絶妙に暗くなりすぎないというか。
入江 役どころとしては昭和のオヤジ世代みたいな。図々しいけど突破力があって、息苦しい状況に穴を開けてくれる。
佐藤さんは顔が派手で、なにも表情を作ってなくても目立つんですが(笑)、なるべく芝居を抑制しようとしてくれたので、僕としては安心して見ていられました。
──一方で、雑誌記者役の稲垣吾郎さんの“普通っぽさ”も、登場人物のなかで際立っていました。