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一瞬で奈落の底に落ちてしまう不安

──コロナ禍で人々が経験した分断や、社会の脆弱さに対する祈りでしょうか。

入江 似たようなことがまた起きて、一瞬で奈落の底に落ちてしまうんじゃないかという不安があります。

©2023『あんのこと』製作委員会

 そのときに人や社会がどう対応するのか。困難に直面しても、なんとか生き延びてほしい。祈りという言葉はいままで使ったことがなかったんですが、今回は祈りに近い気持ちで撮っていました。

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いりえ ゆう 1979年神奈川県生まれ、埼玉県育ち。日本大学芸術学部卒業後、09年に自主制作による『SRサイタマノラッパー』が大きな話題を呼び、数々の賞を受賞。その後も『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(11年)、『ジョーカー・ゲーム』(15年)、『22年目の告白︱私が殺人犯です︱』(17年)、『AI崩壊』(20年)、『映画 ネメシス 黄金螺旋の謎』(23年)など多くのエンタメ作品を送り出してきた。

『あんのこと』
INTRODUCTION
コロナ禍にあった2020年春、薬物依存から更生し、自分の人生を立て直そうとしていた一人の女性が路上で命を絶った──新聞記事となった実際の事件を元に、「自分は絶対これを描かなければ」と入江悠監督が脚本を執筆。
 物語の面白さよりも主人公の感情に寄り添うことにフォーカスし、ドキュメンタリー的な強度も備えるという過去作品とは異なるアプローチで、社会における「見えない存在」を静かな視線で可視化。主人公を河合優実が圧倒的なリアリティをもって演じ、佐藤二朗、稲垣吾郎らが脇を固める。

STORY
 ホステスの母と足の不自由な祖母と3人、団地で暮らす香川杏(河合優実)は、酔った母に殴られて育ち、小4で不登校となり、12歳で初めて身体を売る。希望も絶望も知らず、家族の暮らしを支えるためだけに「ウリ」を繰り返し、覚醒剤に依存する日々を送る。
 初めての逮捕で知り合った刑事・多々羅(佐藤二朗)の助けを得て人生の立て直しを図る杏だが、その行手をパンデミックに遮られ、多々羅もまた事件を起こして杏の前から消える。ひとり社会の片隅に取り残された杏は悲劇的な選択をする──。

STAFF & CAST
監督・脚本:入江悠/出演:河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、広岡由里子、早見あかり/2024年/日本/114分/配給:キノフィルムズ/公開中