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「消費者としての自分」を突き詰めて考えた

龍崎 まさにそうで、「持たざる者」がビジネスの世界で戦っていくためにはどうしたらいいのだろうか、というのが私のスタート地点で、難題だらけでした。とくにホテル業界は大手デベロッパー系や鉄道系など大資本で事業を回しているところが多くありますから、その中で、自分たちの小規模なホテルを選んでもらうにはどうしたらいいかなんて、ググッてもわからない。

龍崎翔子氏

田内 答えがどこかに転がっているわけでなく、考え出さなきゃいけなかったわけですね。

龍崎 はい。答えは自分の中にしかなく、消費者としての自分が答えを知っているはずだと気付いたんです。消費者は無意識にこう考える、行動するというのを突き詰めていったのがクリエイティブジャンプの起点でした。

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田内 人口減少社会への転換やSNSの浸透など、時代が大きく変化する潮目にはものすごいチャンスがありますが、社会が複雑化しているときほど、「本質は何か?」に立ち返らなくてはいけないのでしょう。常識というフィルターを取っ払って「本質を探る」大切さを書かれていましたが、そこでふと「プリンに醤油をかける」話を思い出したんですよ。

龍崎 どういうことですか!?

田内 僕が子どもの頃、あるテレビ番組でプリンに醤油をかけたらウニの味になるというのをやっていて、スイーツに醤油なんて非常識ですが、実際やってみると美味しいんですね、本当にウニの味になって(笑)。プリンって少し甘みはあるけど卵由来のタンパク質という本質を突き詰めると醤油もありだ、というクリエイティブジャンプが起きる。ホテルの本質は何かを考え尽くした先に新しいものを生む方法は、どんなことにも応用できるスキルだと感じました。

龍崎 ありがとうございます。よく本質って「唯一解」のようなものに思われやすいですが、本質は多面体で、どこから見るかによって切り取られる本質はまるで異なります。ホテルでいえば「寝る場所」がスタンダードな本質ですが、「人が長い時間過ごすことができる場所」「横になれる場所」「体を洗うこともできる場所」……と無限にあるわけで、一度本質を掘り起こすというプロセスを挟むだけで、視野が一気に広がって、次の一手が見えてくる気がしますね。

なぜ19歳で起業したのか?

田内 ところで今日ちょっとお聞きしたかったのが、東大に入っていきなり19歳で起業しようって、どうしてそういう発想になれたんですか?

田内学氏

龍崎 もともとは8歳のときにアメリカ大陸横断旅行で、ゆく先々で泊まったホテルがあまりにも画一化されていてつまらなくて、自分がこの課題をなんとかしたいという強烈な「渇き」を感じたのが原点にあります。将来はホテル王になるんだ!と早くから決意していたわけですが、いざ目指そうとしたときに、周りからもらったアドバイスはてんでバラバラでした。

 大手ホテル会社で修行するのがいいんじゃないか、コーネル大学のホテル経営学部で勉強したらどうか、それこそうちの父はゴールドマン・サックスのような投資銀行に入って5年間キャッシュをためて、それを元手にホテル業を始めたらいいという考えでした。つまり、ホテル経営への明確なルートは何もなかった。だからまずは自分より視座が高い人が集まる場にいくしかない、と思って選んだのが東大でした。