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藤井は伊藤玉の頭上に端攻めを開始

 当日、早く目が覚めたのでテレビをつけてニュースを見ると、各局とも叡王戦を取り上げていた。1勝2敗の成績で第4局を迎える藤井にとって、初めてタイトルを失うかもしれないカド番だ。将棋ファンのみならず国民的関心事なのだなあと実感する。

 午前8時48分、関係者が待つ対局室に藤井が先に入室し、ほぼ同時に伊藤も入室。開始6分前には駒をすべて並べ終わった。2人の様子はいつも通りで自然体だった。

 そして9時、石田の挨拶で対局開始。伊藤はいつも通り角換わりに誘導する。藤井は今年の棋王戦第4局、叡王戦第2局と、2局続けて後手をもって変化したが、本局では受けて立ち、右玉にした。互いに銀矢倉に組み直すが、先手玉が8八に入城しているのに対し、後手玉は6二玉と囲いの屋外にいた。

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筆者の師匠でもある立会人の石田和雄九段(ファン提供)

 なんとも奇妙な布陣だが、敵飛車から離れていたほうが仕掛けられにくいという判断だろう。この2人のタイトル戦では同一局面を2局(竜王戦第4局、叡王戦第1局)指しているが、いずれも藤井が先手だった。つまり、互いに逆を持っているわけだ。

 伊藤が陣形を組み直す間、藤井は飛車を横に移動させて待つ。伊藤が穴熊への組み換えを見せ、玉がもぐった瞬間に、3三の銀を引いて飛車先交換を誘った。両者とも駒の位置を微調整しながらの序盤進行で、ここまでですでに手数は58手。しかし藤井の消費時間はまだ20分ほどだ。そして飛車先の歩を交換させてから、自玉のいる6筋で仕掛け、次いで9筋の歩を突いて伊藤玉の頭上で端攻めを開始した。

41分の長考で伊藤は堂々と端歩を取る

 控室には石田と佐々木、三枚堂に加え、門倉啓太五段、加藤結李愛女流初段の石田一門ファミリーが勢揃いした。さらに、見届人アテンド役の屋敷伸之九段と竹部さゆり女流四段が加わって検討していた。一同が、この大胆な攻めに驚いた。

控室には屋敷伸之九段(中央)と岡崎洋七段(右)の姿も

 2筋で飛車を成られても、攻め合い勝ちできるという判断で、藤井はこれくらいの危ない橋はいつも平気で渡っている。いや、危ないとも考えていないだろう。論理的帰結ということなのだ。やがて控室でもこれがかなり厳しい攻めであることがわかり、端を手抜いての攻め合いが検討されていた。しかし、伊藤は41分の考慮で、堂々と端歩を取った。どよめく控室。藤井も時間を使って考え、この局面で昼食休憩に入った。