文春オンライン

【追悼】桂ざこばが初めての独演会の日、高座で大泣きした“深い理由” 師匠に「褒めてやってほしいと思う」と言われた内容が…

2024/06/21

genre : エンタメ, 芸能

note

 これ、もとは、深夜ラジオなどで放送作家としても活躍していた先輩の桂文紅のネタだった。せっかちな口調で畳みかけるようにしゃべるざこばのキャラに合って受けたのだが、今なら「動物虐待」とSNSで叩かれるだろう。時代を感じさせる。

 次にざこばが注目されたのは日本テレビ「テレビ三面記事 ウィークエンダー」のレポーターだった。様々なスキャンダルを取り上げて、真相を追及する。センセーショナルな音楽とともに「新聞によりますと!」とスキャンダルを紹介していく。レポーターは泉ピン子、横山やすし、桂ざこば、今思えば実に濃厚な顔ぶれだった。

©時事通信社

「おまはんが行ってた高校やなんて知るかいな」

 ざこばは主に関西地区を担当して、様々な事件を紹介した。

ADVERTISEMENT

 実は筆者の通っていた高校が破廉恥事件を起こして「ウィークエンダー」に登場したことがある。卒業したばかりの筆者は、テレビでざこばが身振り手振りで唾を飛ばして自分の母校の行状を紹介しだして、顔から火が出る思いがした。

 後年、ざこばと仕事をするようになって、そのことを話すと、

「そんなん、おまはんが行ってた高校やなんて知るかいな。こっちは仕事やないかい!」と気色ばんで言われた。

 20代前半のぺーぺーのスタッフの言葉など、鼻で笑って聞き流せばいいものを、むきになって言い返したのは、心中「しもた、悪いことした!」と思ったからだ。どんな人間に対しても一生懸命に向き合った、ざこばの人の良さがにじみ出ている。

 噺家は、内弟子の年季が明けると、あとは自分で仕事を探しながら、落語を演じる場所を求めて活動するようになる。師匠の前座をつとめたり、興行会社の寄席の高座に上がることもあるが、多くは地域の人々の協力を得て「地域寄席」を自分で開催するようになる。

 落語家にとって「地域寄席」は、いつでも自分の落語を聞いてくれる場所と、お客さんがいる「ホームグラウンド」と言ってよかった。

 しかし、若くして人気者になったざこばは、そうした修行の場を持っていなかった。それでも、ある時期から後輩が主催するような小規模な地域寄席に「飛び入り」で参加するようになった。