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「遺体があるから捕まる。ボディを透明にするんだ」4人の遺体をサイコロステーキのようにバラバラに…《埼玉愛犬家連続殺人事件》“殺人ブリーダー夫婦”の冷酷

『世界の殺人カップル』より #3

genre : ライフ, 社会

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 風間は1957年、熊谷市の資産家の家に生まれ、お嬢様として育った。保育士をしたり、土地家屋調査士の父親を手伝うため測量の勉強などをした後、1976年、19歳のときに銀行員の男性と結婚し実子2人をもうけたものの、夫の浮気が原因で1982年に離婚。1983年初めに、元来犬好きだった風間がアフリカケンネルを訪れ、関根と意気投合する。

 当時、風間はヤクザに交際を迫られ、つきまとい行為を繰り返されていた。相談を受けた関根は仲介に入り、この問題を解決。風間が関根に惚れ、2人は1983年10月に結婚する。このとき関根41歳、風間26歳。関根にとっては7度目の結婚で(うち3回は離婚した相手と復縁したもの)、風間の実家の財産が目的だったと言われるが、関根に夢中だった風間は、関根に刺青を彫らされた先妻らに対抗し、自ら背中に龍の刺青を彫ったという。

 こうして二人三脚の商売が始まった。浪費癖の激しい関根に対し、金銭管理能力に優れていた風間はアフリカケンネルの経理を担当する傍ら、ブリーダー(犬や猫などの動物の繁殖を行い、ペットショップなどに流通させる仕事)としての才覚も持ち合わせ、関根の右腕として活躍していく。

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 一方、関根はペットや猛獣の扱いにかけては天才的で、ブリーダーとしての腕は極めて優秀。アラスカン・マラミュート繁殖の第一人者で、その後、シベリアン・ハスキーの仕掛け役として一大ブームを巻き起こし、自らが主催するドッグショーに風間と一緒に高級車のジャガーで乗りつけるほどだった。とにかく、人間心理を読むことに長けており、そのいかつい外見とは裏腹に独特なユーモアと巧みな話術で、周囲はたちまち彼に魅了されたそうだ。

 しかし、基本的に商売の悪どさは変わっておらず、客との揉め事も日常茶飯事。中には直接、店を訪れ詐欺だと騒ぎ立てる者も少なくなった。そんなとき、関根は背中に刺青を入れ、自ら落としたという小指をちらつかせ相手を威嚇(切断された小指は昔、暴力団の金に手をつけた落とし前だった)。また、地元の暴力団の力を借り、クレームを入れた客が店に来ると黒塗りのベンツを並ばせ、その前でヤクザ連中と親しげに話し、怯えた客を退散させることもしばしばだった。

 こうして売り上げを伸ばしてきたアフリカケンネルもバブル崩壊で、一気に業績が暗転。借金の返済もままならない状態に陥り、関根と風間は税務対策のため1992年に偽装離婚。アフリカケンネルの代表者を風間に移すが、実質の経営者は関根で、2人は以前と変わらず、熊谷市内の犬舎兼自宅で生活を共にしていた。

最初の殺人

 そんな状況下、1993年4月に最初の事件が起きる。埼玉県行田市に住む産業廃棄物処理会社の役員Kさん(当時39歳)は同年1月ごろからアフリカケンネルに出入りし関根と親しくなっていた。当時、兄の経営する会社の経営が不振に陥っていることを相談したところ、関根が一つのビジネスをKさんに勧める。

 アフリカ産のローデシアン・リッジバックという新種の犬を繁殖させれば大儲けできるというのだ。ならば関根自らがやればいいのだが、彼はその商売のリスクが高いことを知っており、また、このころ、アフリカケンネルには税務調査が入り3千万円の追徴課税を命じられ、支払いに窮していた。そこで素人のKさんに金を出させ、当たれば儲けの大半を自分のものにする心づもりでいた。関根は猫なで声でKさんにお世辞を言い、接待にも惜しみなく金を使った。これに乗せられたKさんは、ついにはローデシアン・リッジバック2匹(雄と雌)を関根から1千100万円で購入してしまう。

 ところが、ほどなくKさんは知人から、この犬種の相場が数十万円であることや、購入した犬はすでに高齢で繁殖には適さないことなどを知らされ、さらには、雌犬が脱走して行方不明になったことから繁殖自体が不可能になったため、詐欺のようなものだと関根にクレームを入れ購入代の返金を求める。その後、両者間で何度か話し合いが持たれたものの、返せ返さないで話は平行線。しだいにKさんの存在が邪魔になった関根は風間と話し合ったうえで、彼の殺害を決意する。

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