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北方 いや、書くという行為は同じですよ。カズさんだって、しゃべるという行為は同じでも、違うことをしゃべってるじゃないですか。

カズ ああ、それでいいものなんですかね……。先生の本を読んで、自分はずっと同じところにいることに気づいてしまったんですよね。

北方 私は「同じ場所」ということについてよく考えます。『チンギス紀』は舞台が延々と広いわけです。それで、「広い小説を書きましたね」と言われたんだけど、たかがユーラシアだよ。

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カズ たかがユーラシアですか。

北方 どんなに広くても、たかが地球だよ。それ以上大きくならない。だけど、人が一人ここに立っている。ちっぽけな足でね。これは個人ですよね。個人の心の中は無限でしょう。

 

カズ 地面に着いている部分なんてこれだけの足のサイズしかないけど、その中に無限がある。

北方 それは心に通じているからなんですよ。僕らが見たり感じたりできるものの中に無限はない。どこにあるかといったら、心の中なんですよ。

カズ それは小説の登場人物が多ければ多いほど無限も広がっていくということじゃないですか?

北方 無限と無限だったら足しても二にならないんじゃないですかね。

カズ なるほど。無限は無限なんですね。

北方 表現のことを考える時、心の中は無限だと思っていれば、舞台がどんなに広くても恐れることはないし、逆に、ずっと同じ街の中で同じところをチマチマ行ったり来たりしてるだけでも、それを恐れることはない。物理的な広さなんて関係ないから。

カズ ということは、全部無限なんですね。

北方 私は心を書いているからね。だから、カズさんだって、言葉で心を表現すれば無限なんです。

カズ 俺、嘘ついてばっかりなんですよ(笑)。

北方 俺もそうですよ(笑)。俺だって嘘ついてる。嘘つく商売だもん。

カズ 確かに。嘘ついてますもんね。でも、嘘も無限なわけじゃないですか。

北方 嘘も無限です。心の中から出てくるんだから。無限の嘘、いいですね。

カズ 確かに。無限の嘘をついて飯食えたら最高なんですよね。

北方 カズさん、呼吸するように嘘が出てきません?

カズ 調子いいとずっと出てきます。

ハードボイルドの世界観

カズ 「赤い雲」に、昔、絵描きで、今は居酒屋をやってる親父が出てくるじゃないですか。主人公と居酒屋の親父が会話するシーンを読みながら、我ながら嫌な考え方だなと思いつつも、自分の周りにも、少し共感できて、でも、自分よりちょっとだけ不幸なやつがいたら、俺もハードボイルドっぽい世界観に浸れるんじゃないかって思っちゃったんです。やっぱりハードボイルドの主人公には、ずっとかっこつけててほしいんですよ。そして、傷ついてる人が周りにいたら、そういう世界観が広がるな、ハードボイルドっぽい世界だなと思ってしまった。でも、自分の周りにちょっと傷ついてる人が欲しいなんて、メッチャ嫌な発想じゃないですか。自分って嫌なやつなんだなと思いながら、先生の短篇を読んでたんです。