「まず会社代表が、総責任者という位置づけになります。(代表の下の2人について説明した後で)最後が今回の主犯……。(会社の)代表の旦那。こいつを調べていくと今回の知財の知識を豊富に持っとって、過去にそういった取り扱いもある人物。こいつの指示でデザインして、こいつが中国へ発注をかける。この4名を逮捕する方向で進めます」
まるで刑事ドラマの1シーン。それを現職の警察官が事後に演じていたということになる。
このシーンで顔を出しているのは愛知県警本部の生活経済課の石川警部だけ。彼が指示している他の捜査員は顔にボカシがかかっていて誰なのかわからない映像だ。番組では被疑者グループを「4人組」呼び、テロップでは「『鬼滅の刃』偽グッズでボロ儲け!1年に及ぶ“執念の捜査”完全密着!」として石川警部らの「執念の捜査」を警察の側から描いている。
疑惑の会社に強制捜査に入って押収した大量の書類やパソコンなどを捜査員たちが検証する場面も「再現」されていた。
繰り返しになるが、結果的に逮捕した4人のうち、3人について検察も不起訴処分にしているので、警察の事実確認が不十分なことは明らかだ。
「警察24時」ものの何が視聴者を惹きつけるのか?
ところで、こうした「警察24時」ものの何が視聴者を惹きつけるのだろうか。様々な犯罪や被疑者たちを取り締まる警察官などが登場するが、筆者の印象では一番の見どころは「被疑者らの人間くささ」である。強制捜査に踏み込まれたり、逮捕されそうになったりした時に被疑者が抵抗する。暴れる。容疑を否認するなどそれらの行為が人間ドラマとして人間くさいのである。番組では視聴者の期待に応えようとそうした様子の映像を強調して、かなり長い時間をかけて伝える傾向がある。
問題となった「激録・警察密着24時!!」では、「『鬼滅の刃』偽グッズ」の摘発シーンで朝方、2組の夫婦の自宅に強制捜査に入ると被疑者はトイレに籠城したり、「本当に自殺する」と言ったりして、「ちょちょちょダメ!」と捜査員を慌てさせ、テロップではそのコメントが強調されている。「逆ギレ」や「今度は泣き落とし」といった刺激的なナレーションが多用され、実に“人間くさい”様子が紹介された。人間は追い込まれるとこういう反応をするのか、と人間観察としては興味深い。
ところがそうした抵抗の様子の撮影が許されるのも、この人たちがあくまで被疑者であり、逮捕された容疑者であり、その後も起訴されている被告人である、という前提でのことだろう。結果的に「不起訴」になった人が相手であれば、こうした場面を放送するのは、まったく無実の人を「犯罪者」として報道する、人権侵害行為ではないか。当人の承諾なしには放送することはできないはずだ。
つまり番組の一番「面白い場面」が、その後の「不起訴」という出来事で放送ができないものになっていたはずなのだ。それなのにテレビ東京は放送してしまった。