第二次世界大戦において大きな転換点となったノルマンディー上陸作戦。この作戦は経営戦略の観点から見ても、現代人に大きな示唆を与えるものだという。元陸将の山下裕貴氏がその内実に迫った。

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史上最大のロジスティクス計画

 現在、世界中でスタートアップ企業が最先端技術分野などで目覚しい成長を遂げている。スタートアップの特徴は、革新的なイノベーションの実現、圧倒的な成長力、短期間に成功するための「戦略」である。我が国でも先端半導体分野などでスタートアップ企業が徐々に力を付けてきている。スタートアップ企業だけではない。既存の企業もまた生き残りをかけて様々な分野に挑戦している。これらの企業間の競争は、今後も激しくなるばかりだが、その競争に勝ち残るためにはどのような「戦略」が必要なのか。

山下裕貴氏 ©文藝春秋

 そのヒントを与えてくれるものの一つに、国家の生存をかけた究極のプロジェクトである「戦争計画」がある。「企業戦略」や「経営戦略」の分野で、日常的に「ロジスティクス」という用語が使用されているが、この用語の原義は、軍事用語の「兵站」だ。今からちょうど80年前、史上最大の「大規模兵站計画(ロジスティクス)」が策定・実行された。第二次世界大戦の欧州での戦闘を終結に導いた「ノルマンディー上陸作戦」だ。

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 この大規模作戦は、近年、「経営戦略」の観点からも注目され、研究されている。「組織の在り方」「適材適所の人事」「ロジスティクスの重要性」「困難な課題の克服」……など、多岐にわたって事前に緻密に組み上げられ、さらに計画の実行においては「想定外の事態への対処」も迫られた「大事業計画」だったからだ。現代の我々にも多くの教訓を与えてくれている。

 ノルマンディー上陸作戦とは、どのような作戦だったのか。今日の「経営戦略」のヒントにもなり得るエピソードを中心に振り返ってみたい。