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CIA長官の分析

 ちなみにCIAのバーンズ長官も去年7月のアスペン・セキュリティ・フォーラムで「台湾侵攻2027年説」を唱え警戒感を見せている。

「習近平国家主席は2027年までに台湾侵攻の準備を完了するよう指示を出している。これは準備の指示であり、実際の侵攻が不可避であることを意味するものではない」

「しかしCIAをはじめ米情報機関に習主席の台湾支配に向けた決意を過小評価するものは誰もいない」

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米軍に肉薄する中国人民解放軍 ©時事通信社

 CIAのトップが公の場で外国の意図についてここまで踏み込んで断定するのは珍しい。米国は習主席が台湾侵攻に向けて指示を出し、かつそれを受けて具体的に中国軍部が動き出していることを示すハードエビデンスを持っているのだろうと筆者は睨んでいる。習主席の演説や動静など単なる外形的事実関係や状況証拠だけで、ここまで情報機関のトップが言い切るとは考えにくい。決定的で具体的な「何か」を握っていると見るべきだろう。

 その「何か」については筆者なりの推論を持っているが、本稿はデータやファクトを材料とするのが趣旨なので、ここで推測を語ることは控えたい。

 言葉だけでなく行動も観察してみよう。去年、1年間だけでも米軍の「台湾有事シフト」は顕著だ。

舞台はフィリピンに

 その舞台は台湾の南に位置するフィリピンだ。米軍ではフィリピン政府との取り決めでフィリピン国内に5箇所の活動拠点を確保していたが、去年新たに南シナ海のパラワン島近くやルソン島に4箇所の拠点を追加することで合意している。

 フィリピンは台湾有事の際、米海兵隊、陸軍の対艦ミサイル部隊や戦闘機部隊が展開する前線基地の機能を果たすことになる。フィリピンは米軍にとって、台湾海峡を渡ろうとする中国の上陸部隊やバシー海峡をフィリピン海に抜けようとする中国の空母機動部隊を妨害するには欠かせない重要拠点なのだ。米軍は8200万ドルを投じ、追加で獲得した拠点の拡張工事に着手すると共に、海兵隊がフィリピンの離島を拠点にSLVと呼ばれる「動く基地」になる艦船を使った展開訓練も始めている。

 そのフィリピンには去年12月末、ハワイの真珠湾から1億5000万リットルの燃料が移送された。広大な太平洋を渡って米本土やハワイから駆けつけなければならない米軍のアキレス腱の一つは補給だとされている。中国が軍の補給のために5500隻規模の商船を有事の際に動員できるのに対し、米軍は補給に使える輸送船が80隻しかない(マーク・ケリー上院議員の米上院軍事委での発言)。大量の燃料をあらかじめ「前線」の拠点に置いておく事前集積は補給や輸送の課題を解決する策の一つとなる。

 作戦の拠点の確保、燃料の確保と着々と手を打っている米軍だが、将来の戦いを左右すると言われる先端兵器への投資も加速させている。

 まずは極超音速ミサイルだ。去年3月、バイデン政権は極超音速ミサイルの生産基盤の強化のために国防生産法を適用することを決めた。国防生産法は大統領に国内産業を統制する権限を与えるもので、安全保障に必要な機器の生産を大統領が企業に対して命じることができる。過去、コロナ禍においてトランプ大統領が人工呼吸器の緊急生産を命じるために発動している。

バイデン大統領 ©時事通信社