音速の5倍以上のスピードで、複雑な軌道を描く極超音速ミサイルは今の技術では有効な迎撃方法が確立されていない。中国はすでに実戦配備をしている一方、米国はまだ開発段階にとどまっており、国防生産法の適用で実戦配備に向けた生産基盤の整備を急ぎ、中国との競争で追い上げをはかろうとしている。
一部の専門家の間では「中国が開発でリードしているうちに台湾侵攻を決意するのではないか」という懸念が出るくらいの兵器だ。米国としては中国が自己過信で冒険的行動に出ることがないようにするためにも、早急に極超音速兵器の開発競争でのギャップを埋めようとしている。
米軍のドローン実戦配備が加速
さらにもう一つ、台湾侵攻阻止の切り札として投資を加速させているのが無人機だ。
去年8月、国防総省のヒックス副長官は数千機のドローンで中国に対抗する「レプリケーター計画」を発表している。「中国軍の量的優位に対してドローンの量で対抗する」というこの計画は、台湾を目指す中国軍の揚陸艦に突入する「カミカゼ・ドローン」を数千の単位で配備するものと見られている。台湾海峡を渡ろうとしている上陸部隊に対して数千の水中ドローン、水上ドローン、無人機で攻撃を加えることで、少しでも上陸作戦を遅延させ、米空母が台湾近海に駆けつける時間を稼ごうというものだ。
レプリケーター計画を発表したヒックス国防副長官は「中国の政治指導者に、毎朝起きるたびに『今日はその日ではないな』と、台湾侵攻が割に合わないと思わせなければならない。今日から2027年までの間、そして2035年、さらに2049年までの間、ずっとだ」と中国が仮想敵であることを隠そうともしていない。
注目すべきは2年以内には配備を開始したいというタイムラインだ。
無人兵器の開発を進めている米軍だが、実戦配備は早くておおむね2030年以降とされてきた。それがここに来て急遽、民間スタートアップに呼びかけて「使えるものからすぐに使う」という姿勢に転じている。今から2年後、つまり2026年中には無人機の群れの配備をスタートさせるということから、事態の切迫を受けてなんとか2027年に間に合わせようとしていると読み取ることができる。
こうした危機感は米軍だけでなく民間の専門家たちにも共有されている。米シンクタンクCSISが米台の安全保障専門家87人にアンケートをとった結果によれば、米側専門家の68%、台湾側の58%が「今年中」に中国が海上封鎖や台湾に向かう船の臨検に乗り出し、台湾海峡危機が起きる可能性があると考えている。彼らが悲観的過ぎるのか、我々日本人の見通しがお花畑なのか、彼我の認識の溝はあまりにも大きいといえる。
だが、実際に数字というデータを見てみると米国を本気にさせる理由が理解できる。
経済的減速に見舞われている中国だが、それでも過去20年間の成長スピードによる蓄積効果は大きく、軍事力では米国に並ばないにしても、その追い上げのペースは凄まじい。
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本記事の全文は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています(布施哲「米中軍事競争の大接戦」)。全文では、下記の内容について詳報している。