一瞬にして空気を変えたプレー
石川がようやく“らしさ”を取り戻したのは、五輪出場が懸かった第6戦のスロベニア戦だった。
1対6。第1セットとはいえ、ストレート勝ちが求められた試合での5点ビハインド。相手のスロベニアもこの試合に勝てば同国史上初の五輪出場の可能性が高まる。両者にモチベーションの差はない。
劣勢が続く状況で、さらにスロベニアのサーブが日本の守備を崩す。しかも、ミドルの攻撃を封じようと小野寺大志を狙ったサーブがそのまま敵陣に返った。めったにミスをすることがない小野寺のプレーだけに、ここで失点すればダメージはきっと大きかったに違いない。会場をため息が包んだ瞬間、一つのプレーが一瞬にして空気を変える。
チャンスボールからスロベニアのオポジット、ロク・モジッチが強烈なスパイクを打ち込む。それを一人でブロックしたのが石川だった。手の出し方、タイミング、何より決めたシチュエーションが完璧だった。石川自身もそのプレーを自賛する。
「『ナイス、俺』って思いました(笑)。実際、あのまま行かれたら第1セットを取るのは苦しかった。悪い流れを断ち切った、と確信があったので、チームを救ったぞ、と。あれは会心の1本でした」
「失望」からの、見事なカムバック
その後は「これぞ石川!」と唸らされるようなプレーを最後まで見せつけた。特に、1セット目の中盤に見せた4連続得点は異次元のプレーだった。“石川劇場”によって流れを完全に引き寄せた日本は、25対21で逆転の末に第1セットを先取すると、競り合いながら第2、第3セットも連取して、パリ五輪出場を決めた。
ただ勝つだけでなく、ストレートで勝たなければならないという大きな課題をクリアした。しかも、5点のビハインドという圧倒的に不利な状況からスタートした試合をひっくり返し、「使命」と掲げた五輪の出場権を見事に獲得した。嬉し涙をひとしきり流した後、石川は満面の笑みで会場の声援に応えた。
「失望」からの、見事なカムバックだった。
写真=末永裕樹/文藝春秋