バレーボールネーションズリーグで銀メダルを獲得した男子日本代表。パリ五輪の組み合わせ抽選が行われ、男子日本代表はグループCでアメリカ合衆国代表、アルゼンチン代表、ドイツ代表と予選ラウンドを戦うこととなった。

 52年ぶりのメダル獲得を目指す、史上最強といわれる日本代表の中で原動力ともなっている若きエース髙橋藍の秘話を『日本男子バレー 勇者たちの軌跡』(田中夕子著/文藝春秋)より抜粋して紹介します。(全2回の1回目/続きを読む)

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イタリアだと身長だけで評価されることもある

 東山高のトレーニングルームでも、日体大の一員として躍動した試合でも、日本代表のユニフォームをまとうようになっても。立場や環境が変わっても、いつも髙橋の心の中には「もっとこうなりたい」「もっとこうしたい」という向上心があった。

日本代表の髙橋藍選手

 単身イタリアへ渡ってからも同じ。パドヴァで過ごした2年目のシーズンには、開幕から堂々とスタメンを勝ち取り、攻守両面で欠かせぬ存在へと成長した。しかし、好調なプレーを見せていたにもかかわらず、リーグ中盤から後半にかけベンチスタートの機会が増えた。髙橋は「選手起用は監督が決めること」と言いながらも、少し不服そうな顔でぼやいていた。

「イタリアにいると、やっぱりまだ、単純に身長だけで評価されるところもあるんです。たとえば相手チームのオポジットが220センチとか、そういう選手とマッチアップすることになると、僕より高さがある選手に代えられる(髙橋は188センチ)。

 でも、じゃあ試合の中で俺のブロックがそんなに機能しないか、と言えば、触るところは触っているし、後ろと連携できれば自分では全然通用すると思っているんです。

 むしろタッチして、ボールがつながったのにレシーバーが拾いに行かずに諦めたりしているのを見ると、おい、って(笑)。高さが、って言う前にもっと徹底することあるやろ、って思うし、腹立つこともありますよ。でもそういうのも全部含めて、いかに黙らせるか、って世界ですから」

髙橋選手

海外に行って思い知ったこと

 会えば笑顔で「大変っすよ」と言いながらも、今、取り組んでいることや見据える目標をよどみなく語ってくれる。コミュニケーション能力は高く、発する言葉も常にポジティブだ。大学生ながら難題も涼しい顔で乗り越え、簡単にステップアップしているようにすら見える。だが、それは錯覚に過ぎない。貪欲に突き進み、何度ももがきながら壁を乗り越えてきた時間でもある。

「今までは、監督やコーチに言われることに対して何でも『はい、はい』と言うだけ、言われた通り実行するだけでした。でも海外に行って、自分がどうプレーしたいのか。そもそもお前のプレースタイルは何か。イメージで描くだけでなく、それを言語化して、体現しないと通用しないというのを思い知ったんです。

 トス一つとってもそう。いろいろな人の意見を聞いて、全部取り込んでいいものを探していこう、と思ってやってきたんですけど、イタリアに来て言われたのは『もっと自分が欲しいトスをコールしろ』と。何でもオッケー、オッケーではなく、このトスをここでくれ、と主張して、ぶつかり合って強くなる世界だから当然ですよね」