やらずに後悔するよりも、やって後悔するほうがいい
器用で、技術もある。だが、これから戦おうとしているのは、それだけで乗り切れる世界ではない。自分はどんな人間で、何を欲するのか。伝え、実践するのも自分自身。それ以上の証明はない、と気づかされてきた。
「言われたことをやるだけ、やろうと思ってもやらずに終えたら絶対後悔すると思ったんです。だったら、多少ワガママでも自分を通したい。納得いくまで、やってやろう、と思いました」
やらずに後悔するよりも、やって後悔するほうがいい。日めくりカレンダーの一節になりそうな言葉を胸に深く刻みこんだシーンがある。
2022年の夏、スロベニアとポーランドで開催された世界選手権の決勝トーナメント初戦、フルセットまでもつれたフランス戦だ。
少し不運な幕切れでの髙橋の迷い
互いが2セットずつを取り合って迎えた最終セット。セッターの関田は、前衛レフトの髙橋に立て続けにトスを上げた。2本続けて決めて2対0。フランスも1点を返したが、直後にハイセットを髙橋が決め3対1。さらにサーブで崩したラリーを西田が決め4対1。15点先取の最終セットで、いきなり3点もリードし、勝利を大きく手繰り寄せたかに思われた。
ただ、相手は世界の強豪。ましてやフランスは前年の東京五輪で金メダルを獲得した相手だ。確率論をぶち壊すかのように、中盤と終盤に連続得点を重ね、あっという間に逆転された。日本も負けじと踏ん張り、 14対14のデュースに持ちこむと、相手のミスも手伝いマッチポイントを握った。しかし、あと1点が取り切れなかった。
崖っぷちに追い込まれたはずの王者は息を吹き返し、日本は僅差の攻防の末に16対18で敗れた。最後の1点はフランスの大エース、イアルヴァン・ヌガペトが日本の2枚ブロックに屈することなく、叩きつけた痛快な一撃だった。その前に、決してキレイではなかった返球がたまたまセッターのもとに返るという、日本にとっては少し不運な幕切れ。ただ、実はこの瞬間、ブロックに跳ぶか、レシーブに入るか。髙橋には迷いが生じていた。