死んだ理由が分からないまま彷徨っている小説家の幽霊と、謎めいた美形の古物商。

 曰くつきの青年2人が織りなすホラー短編集『幽霊作家と古物商 黄昏に浮かんだ謎』が、7月9日に文春文庫より発売されます。

幽霊作家と古物商 黄昏に浮かんだ謎

 本作の発売を記念して、著者の彩藤アザミさんに「おすすめのホラー小説」についてのエッセイをいただきました。

ADVERTISEMENT

========

 おすすめのホラー小説を紹介させてもらうことになった。

 とはいえ、書いている癖にホラー小説にはあまり詳しくないので、本当にただただ好みに基づくおすすめを紹介させてもらう。

 真っ先に思い浮かんだのは、青空文庫で読んだ「中国怪奇小説集17 閲微草堂筆記(清)」(岡本綺堂著)だった。なにかのホラー小説で引用されていた(なんの小説だったか一向に思い出せないのが悔しい)ので読みにいったら大変面白かったのである。

 これは清代の紀昀(きいん)という人が奇妙な話や珍しい話をまとめたもので、各話はとても短い。余計な描写がそぎ落とされた、国や時代を超えて伝わる面白さがある。

 調べたら光文社文庫から『中国怪奇小説集 新装版』という本が出ており、そちらには「閲微~」以外の章もまとめて収録されているようだ。

中国怪奇小説集 新装版

 前置きとして名を挙げておこうと思ったら長くなってしまったが、「短い怪談」が大好きなのである。

 娯楽は「可処分時間の奪い合い」とも言われる現代においては、いかに最小の所要時間で、大きく受け取り手の感情を揺らすかが大事になってきている。「掌編ホラー」は、まさにうってつけのジャンルではないか。

 まるでショート動画を次々流すように、刺激を求めて読む手が止まらなくなる。

短いのに切れ味たっぷりな『ゆびさき怪談 一四〇字の怖い話』

『ゆびさき怪談 一四〇字の怖い話』

『ゆびさき怪談 一四〇字の怖い話』織守きょうや、澤村伊智、他多数著(PHP文芸文庫)もまた、そんな欲求に応えてくれるおすすめ本である。

 14人ものホラー作家による140字の怖い話を集めた贅沢なアンソロジー小説集だ。一人でも気になる作家がいたらぜひ手に取ってほしい。きっと新たに気になる作家が見つかることだろう。

 気に入った話に付箋を貼りながら読んでいたので、これを書くにあたり読み返してみたところ、途端に新鮮な恐さと驚きが蘇ってきた。

 ストレートに怖い話、不気味な話、理不尽な話、ひたすら厭な話、トチ狂った(あえてこの言葉を使う)話、切ない話、二度読みしても意味がわからない話……。バラエティに富んだ読みくちが、どこまでもどこまでもページを捲らせてくれる。

 特に短い百字程度の話は、あまりのキレにそのままここに引用したくなったくらいだ。読んだ人が十秒で唸る顔が目に浮かぶ。

 各話に共通しているのは、どれも「投げっぱなし」なことだ。ホラー小説には往々にして終盤にオチがつくと恐さが薄れるところがある。短いゆえに細部は読者にゆだねられ、言いようのない余韻を残すのだろう。