日々ものすごい数の本をひたすら読み続けている人もいれば、ふだんは全く読まないという人もいる。
あんまり本を読まない人にはわかりにくい話であっても、息をするように本を読んでいる人にとっては、とってもよく見る話だった、ということは珍しくない。
両者が楽しく読める本というのはなかなかない。本書は、そのとても稀な例である。みじかく言うなら、激推しぽよ。
ふつう、本の紹介欄に、激推しぽよ、とは書かない。その語尾は一体どこからきたのか。でも、そうせよと迫る何かがある。
表題作を含む七篇をおさめる。とても不穏な書名であって、えっ、となる。日本語として不思議なところは全くないのに、どこか奇妙な手触りがある。SFか? という気持ちが湧き、いや、ホラーかもしれない、という想像が浮かぶ。もしかすると医療ものなのかもしれない。
そのどれもが半ばあたりで、半ば外れで、短篇によっても激しく変わる。
どのお話も何が書かれているかははっきりしているのに、様々な読み方を許容する。悪ふざけにしか思えない形ではじまった話が、なにかの必然を思わせたりする。その逆も起こる。
不条理ものと見る人もいれば、これこそが現実を鮮明に描くやり方だ、と感じる人もいるはずである。
でも文章は重くない。面倒でもない。むしろ軽い。中身のない言葉遊びという意味ではなくて軽快である。次の行に何がくるのか予想がつかない。
一瞬意味がわからない、ということはひんぱんに起こる。なるほどそういう設定ですか、と思う人がいる一方で、現実ってそうだよなと受け取られる場合も多いと思う。
比喩がそのまま現実になったという感覚に似る。言葉がズレてしまった様子が、そのズレた言葉を用いて、はっきり伝えられているという感触がある。
根底に不気味さや不安定さが横たわっているようであり、いやでもそういうことは横に置いておいてよいのではという笑いがある。
「わたくしは自信をもってこの本を推薦いたします」といった類いの文章になにか、いわく言いがたいおかしさや面白みを覚えるような人に向いている。
激推し、という言葉に、激推しとはなにか、と感じる人にも向いている。
内容について全然紹介しなかった。
だってもったいないからで、本書ではじめて出会うこの感覚を実際に体験してもらいたい。ネタバレがどうこういうレベルではない強度に直接対面してみてもらいたい。
にらめっこに近いところもある。笑ったら負けだが、まあ、勝てない。
でも拒絶反応を示す人もいるかもしれない。心配な人はとりあえず、書店でどこかのページを開いてみるとよいと思う。
やしおひさみち/1985年生まれ。カクヨムで小説を投稿し話題となるほか、はてなブログでは、やしお(id:Yashio)名義で2022年「年間総合はてなブログランキング」1位の記事を発表するなど多方面で活躍している。本作が小説家デビュー作となる。
えんじょうとう/1972年生まれ。2012年『道化師の蝶』で芥川賞を受賞。近刊に絵本『ねこがたいやきたべちゃった』ほか。