フレアの規模は太陽からの磁気嵐の風速から推定できます。たとえば普通の太陽風であれば、400~800km毎秒(ちなみにジェット機は約0.3km毎秒です)、地球に到着するのに3日くらいかかります。1000km毎秒を超えると「大フレア」に相当します。キャリントンの観測の翌日、約17時間後に地球のあちこちでオーロラが見えたことから計算しますと、2400km毎秒と推測できます。とんでもない規模です。最近では、このときのフレアのX線強度はX46~X126でないかと議論されています。
19世紀半ばのこの時代、まだ今ほどには電気が使われていませんでしたが、それでも電信を使い始めていた欧州諸国では、スイッチを入れていないのに電信機が勝手に動き出したり、電報用の紙が火花放電によって燃えたり、というような事故があったそうです。
今後10年間で12%の確率
もし、これを現代に置き換えたらどうでしょうか。被害は何億人にも及ぶでしょうし、停電も1週間、いえ場合によっては1か月間というのも大げさな話ではありません。米科学アカデミーは被害額が2兆ドル(約300兆円)に達すると予想しています。
そうはいっても160年以上前のことですし、遠い太陽の現象が身近に影響を及ぼすというのはなかなか実感できないことでしょう。
実は2012年7月23日にもキャリントン・フレアクラスの巨大フレアが起きています。このフレアの直後、研究者の間で話題になったので私もよく知っていたのですが、14年になってNASAも「大フレアが地球ニアミス(Near Miss: The Solar Superstorm of July 2012)」と発表し、世界でも大きく報道されました。そのためフレアから2年も経っていたにもかかわらず、私も日本のテレビ局から取材を受け、電話出演しました。
このときは本当に幸運でした。フレアの飛び出した方向が地球の位置とは逆だったのです。たまたまです。これが直撃していたら……。
その後、ピート・ライリーというアメリカの物理学者が、今後10年間にこのクラスの巨大フレアが起こり、地球を直撃する確率についての論文を発表しました。確率は12%ということです。
ライリーは「当初は確率がとても高いことに自分もかなり驚いた。だが統計は正確なようだ。厳しい数字だといえる」と述べました。10年間に12%の確率、私もかなり大きいと思います。