通信・放送が2週間ほど断続的に途絶え、携帯電話のサービスは一部停止。さらに広域停電、航空機や船舶の運航見合わせが発生する恐れがある……。太陽フレアがもたらす影響について、世界から警鐘が鳴らされている。
さりとて、本当に甚大な被害を起こすようなフレアは現実に起こるものなのか。ここでは、宇宙物理学者の柴田一成氏の著書『太陽の脅威と人類の未来』(角川新書)の一部を抜粋。太陽フレア研究の歴史を追っていく。(全2回の1回目/続きを読む)
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太陽フレアは「今そこにある危機」
24年5月、太陽の大フレア(太陽面爆発)の連続発生が約10年ぶりに起き、カナダやアメリカ北部はもとより、日本各地でもオーロラが見えたというニュースが相次ぎました。テレビや新聞でも取り上げられていましたので、皆さんの記憶にもあることでしょう。私も何件も取材を受けました。
太陽の爆発の威力を表す指数でいえば、1年に10回程度起きるXクラスの大きな爆発が、この時はわずか1週間のうちに11回も起きました。
太陽から発せられるエネルギーと光がなければ、地球上のほとんどの生物は生きていくことができません。太陽は文字通り母なる星ではあるのですが、一方において生命を脅かす存在でもあります。
きっと、ほとんどの人は「まさか」と思うことでしょう。しかし、研究が進んだ今、太陽面における大爆発、太陽フレアが、現代社会においては大変なリスクになる可能性が出てきたのです。
1989年3月13日、カナダのケベック州で大停電が発生し、2分も経たないうちに州全体が暗闇に覆われました。何の前触れもなく、突然電気網がダウンしたのです。
朝になっても停電は続き、復旧までに少なくとも9時間はかかりました。その間、都市機能は完全にマヒ。家庭の電源はおろか、交通や通信などすべてのインフラがストップしました。影響を受けたのは約600万人、経済的な損失は100億円に上ったと見られています。
この都市災害を起こした原因こそ、数日前に太陽面で起きた大フレアでした。大フレアが発生したため、大量のプラズマが地球に向かって放出されたのです。それが地球の磁気圏に入り、激しい磁気嵐を起こしました。
磁気嵐は大規模なオーロラを発生させ、米国のテキサス州やフロリダ州といった南部でもオーロラが見えました。普通なら決してオーロラなど見えない土地です。
同時に電波障害が発生し、短波を使っているラジオなどはまったく聞こえなくなったといいます。
そして起こったケベック州の大停電。アメリカでも数カ所、電気施設に障害が起こったといいます。なぜケベック州だけ広範な被害を受けたかというと、ケベック州の地形がカナダ楯状地(たてじょうち)という固い岩盤の場所にあったため、天から降り注ぐ電流が地中に流れることができず、一斉に送電線に潜り込んでしまったためでした。