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墜落寸前の123便を目撃した43歳会社員の存在

 新聞記事の飛行写真に添えられた記事は「墜落寸前の123便 カメラでとらえた」と見出しを立て、絵解き(写真の説明)には「12日午後7時前」と付けられていた。記事には撮影者の43歳の会社員の話として「まわりが薄暗くなったころ、南西の山あいから突然、低空で飛んで来る大型機が見えた。

 ふだん飛行機が通るコースでもないため、家族らと上空を見上げたところ、進行方向に向かって左側の翼が4回ぐらい下がったり、立ち直ったりしていた。フラフラしながら甲武信岳の方へ飛び去ったが、異様な様子から『墜落するぞ』と夢中で手元にあったカメラのシャッターを押した」というような内容が書かれていた。

墜落現場に散乱する日航ジャンボ機の残がい ©時事通信社

松尾の推理

 写真を見た後、松尾は「後部圧力隔壁が破断して機内の与圧された圧縮空気が機体後部の非与圧空間に一気に噴き出し、その上部の垂直尾翼を内側から吹き飛ばすと同時に垂直尾翼内の4系統すべてのハイドロ・システムも壊したのだろう」と推理した。「4 操縦不能」でも書いたが、ハイドロとは圧力のかかった作動油(ハイドロリック・フルイド)のことで、航空機はこの油圧装置によって飛行することができる。

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 つまり、ハイドロ・システムが破壊されると、油圧配管からハイドロが漏れ出して主翼のフラップ(高揚力装置の下げ翼)やエルロン(補助翼)などの動翼を作動させることができなくなり、操縦不能に陥る。

 松尾のこの推理を裏付けるように13日午後6時過ぎには、相模湾の海上で赤い鶴のロゴマークの一部が付いた垂直尾翼の垂直安定板前縁の破片(4.5メートル×1~1.5メートル)が見つかった。この後、垂直尾翼の下部方向舵や機体尾部の補助動力装置(APU)の一部も同じように海上で発見された。

 すべて「ドーン」という異常音とともに日航123便が落としたものだった。機長や副操縦士、航空機関士は垂直尾翼や油圧配管のハイドロ・システムを失って操縦不能に陥ったことが分からないまま、なんとか機体を立て直そうと懸命に操縦していたことになる。もちろんキャビン・アテンダント(客室乗務員)や乗客も異常な飛行がなぜ起きたのかを知る由もなかった。