今や現代人に欠くことのできないマストアイテム、スマートフォン。では、世界初のスマホは何? 答えはiPhone……ではなく、ブラックベリーだ。久しぶりにその名を聞いた人も多いだろう。スマホが世に登場した黎明期、確かにその名は業界に轟いていた。“ビジネスマンが持つ高級スマホ”と言えば、小さなキーボードが搭載された手の平サイズの真っ黒なデバイス、ブラックベリーだった。その革新的な製品を生んだ発明家と企業家の栄枯盛衰を描いた伝記映画が『ブラックベリー』(ネットフリックス他で配信中)だ。

 1996年、カナダの技術オタク青年、マイクとダグは高校時代の教師に言われた言葉を現実にしようとしていた。

「電話の中にコンピューターを入れた奴は世界を変える」

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 当時は携帯電話でメールの送受信をするのも困難な時代。天才肌のマイクは画期的なアイデアで50万台の端末が同時に使えるシステムを考案する。しかし、彼らはあくまで技術者。経営やマーケティングは素人だ。彼らに代わりその役目を担ったのが野心家の企業家ジム。優秀だが会社をクビになったばかりで切羽詰まっていた。互いの強みと弱みを補い合う3人が手を組み、ハッタリや強気な態度を武器に瞬く間に大成功を収める。ジムは営業にこう命じていた。

「エリートの前でこれ見よがしにブラックベリーを使え」

©佐々木健一

 単なるメールの送受信もできる携帯電話ではなく“ステータスシンボル”として価値を持たせるブランド戦略だ。

 だが、驕れる者久しからず。2007年にはスティーブ・ジョブズがiPhoneを発表する。それを見たマイクは、

「キーボードのない電話を誰が欲しがるんだ?」

 と呟く。彼はキーボードやクリック音への拘りがあり、趨勢を見誤った。絶頂期は携帯電話市場の約5割を占めたブラックベリーだが、現在のシェアは0%。盛者必衰の理を2時間で体感する秀作だ。

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『ブラックベリー』
https://www.netflix.com/jp/title/81725542