もうひとつ、脚の見せ方にも気配りが感じられます。椅子に座った際の脚の流し方、つま先の位置がきちんと計算されているのです。ところが相手によっては、脚を組んで見せることも。このドギマギさせるスタイルは、ウインストン・チャーチルが交渉の場で葉巻きを燻らし、その灰がいつポトリと落ちるかとハラハラさせて自分に優位に話を持っていった戦略に似ています。
安定した腹式呼吸、滑舌や強調する言葉も正確
最後は「スピーチ技術」です。蓮舫さんは、情熱が感じられる演説だったものの、落ち着いた語りというよりは「絶叫」に近い印象。
石丸さんは緩急があるこなれた演説ですが、夜間に自宅から配信されていたYouTubeでは、友達の家で一緒に話しているような親しみやすさがありました。この“同じ目線”での語りぶりは、Facebookライブを駆使して国民とコミュニケーションをとった、ニュージーランド元首相のジャシンダ・アーダーンを思わせます。
では小池さんはどうでしょうか。まず、腹式呼吸で発声が安定しており、滑舌や強調する言葉の立て方なども聞き取りやすく説得力があります。長時間聴いていても嫌な気分にならない、歯切れがよく小気味いい声と話し方です。
話し終えた後に、しっかりと口を結び、口角を上げる表情も、聴衆を安心させます。と同時に、口角を上げることで、エイジングによる劣化を感じさせない弛まぬ努力も見せています。人前に立つ自分の「見られ方」、与える印象を強く意識しているのです。
当日朝の人身事故を話題にするタイムリーさも
小池さんは演説の中で自虐的にへりくだることもままありますが、盤石のスピーチ技術のおかげで安心して見ていられます。また、横文字を多く使いながらも、例えば「SDGs」と発した後に「持続可能」と付け加えるなど、フォローを欠かしません。
大勢の聴衆がストレスなく聞き取れる「パブリックスピーチ」においては、やはり8年にわたって都知事を務め、実績を重ねてきた小池さんが有利だったといえるでしょう。