実際に自分がはじめて長編作品でロトスコープを経験したのは、2015年公開の岩井俊二監督の『花とアリス殺人事件』です。ロトスコープがお好きだった岩井監督から、アニメの企画をするからとお声がけいただき、ロトスコープアニメーションディレクターという立場で参加させていただきました。
この作品に参加したことで、「ロトスコープってこういうことなんだ」というのが、実感としてわかった気がします。
想像だけでは描けない動きを描き出せるのが、ロトスコープの醍醐味
──どんなことを実感されたのですか?
ロトスコープには、表現方法としての得意不得意がはっきりしているということです。
実写があるからこそ、より人間に近いリアルな動きや繊細な表現ができる一方で、実写の動き通りにアニメを描いてしまうと動きが小さくなってしまい、演技の持つ「うまみ」が薄れてしまう。拾うべき動きとそうでない動きを見極めるのが難しい、クセのある手法なんだな、というのは自分がやってみて気づいたことでした。
人間って、実はすごく面白い動きをしているんですよ。その何気ない動きって、頭の中の想像では絶対に描けないものだったので、そういう面白い動きを描き出せるのは、ロトスコープならではの醍醐味だなと感じました。
──今回は山下敦弘監督との共同監督です。具体的にどのような役割分担で制作が進んだのでしょうか。
『花とアリス〜』の時は、本編の3DCGアニメーションがメインで、3DCGで表現するのが難しい部分をロトスコープで補う、というのが私の役割でした。でも今回は、共同監督ということで、脚本から実写の撮影まですべて参加させていただいて、ゼロからつくりあげるという体験をさせていただきました。
「最初から最後まで作品にかかわれた」という意味でも、すごくいい経験をさせていただきました。
──山下監督とは、本作の前に豊島区の短編アニメでもご一緒されています。
山下さんとご一緒させていただくのは今回がはじめてでした。これまでアニメーションをやったことがない山下さんと、そんなにロトスコープの経験値があるわけでもない私がいきなりロトスコープの長編を作るのは怖いから、1本短いのをやってみたいよね、と話していたんです。