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ショックのあまり失禁も…「かわいい」の先へ行った演技

『アンナチュラル』の大ヒットは作り手だけでなく、演じ手たちのキャリアにも大きな影響を与えた。そう感じたのは、今年5月公開の映画『ミッシング』を鑑賞したときのこと。主演の石原さとみが、失踪した愛娘を死に物狂いで探す母親・沙織里を演じていた。

 観る者の胸を容赦なく抉る『ヒメアノ~ル』(2016年)や『空白』(2021年)を手がけた吉田恵輔監督の作品で、数年前から熱心に逆オファーをしていた石原にとっては、念願かなっての一作だという。

映画『ミッシング』公式Xより

 凄惨な女児誘拐事件に世間は哀れみの目を向けるものの、母親が失踪当日に推しのライブに足を運んでいたことが明かされた途端、そのエールは凄まじいバッシングへと変わる。物語の中盤には、娘が保護されたと一報が入るのだが、それが心無いイタズラ電話だったことが判明。たった一つの希望を無惨にも取り上げられた沙織里は、ショックのあまり失禁してしまう。

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 役作りのためにボディーソープで軋ませた髪を振り乱し、時には攻撃的な目を向けたりと、人間のあらゆる感情が剥き出しになった沙織里の姿に、石原さとみが、「かわいい」のその先へ行ったことを感じた。

清純派女優の王道ルートを駆け抜けてきた

 ここで女優・石原さとみ史を少し振り返りたい。1986年生まれの石原の同世代は、綾瀬はるかや長澤まさみといった日本の映画・ドラマ界を牽引する女優たちが集う“黄金世代”である。つまりそれほど強力なライバルも多い世代ということだが、時代を彩った作品の中枢にはいつも石原がいる。一視聴者目線では、ずっと清純派女優の王道ルートを駆け抜けてきたイメージだ。

2003年、デビュー当時の石原さとみ ©文藝春秋

 そんな彼女の存在を揺るがないものにしたのが『失恋ショコラティエ』(フジテレビ系、2014年)である。新進気鋭のショコラティエ・小動爽太(松本潤)がフラれてもなお恋焦がれる小悪魔的人妻が、石原演じる“サエコさん”だ。原作漫画のサエコさん評は「どれほど絶世の美女かと思えばめちゃめちゃ普通じゃん……!!」というものなのだが、石原が演じたことにより、ビジュアル最強あざとさMAX“天下無双のサエコさん”が、新たに誕生したのである。

©時事通信社

 ドラマ本編が終了してもサエコさんブームが冷めることはなかった。今でも彼女を崇める声は絶えず、“最強モテ女”サエコさんの面影は、そのまま石原自身のパブリックイメージに繋がった。