「でもね、キンマ(近畿厚生局麻薬取締部)が密売場所を調べに行った後、『(覚醒剤が)なかったよ』と言うんですね。そりゃあ、ないはずですよ。だって俺が卸してるんだから。捕まえに行くっつったから、卸すのやめちゃってたわけですよ。そのときは、もしかしたら俺まで捕まえてくるんじゃねえかと、信用しなかったんです」
そこでX取締官はこう頼んだという。「悪いがカルロス、1ヶ月ぐらい渡すのやめてくれないか? 俺らもうまく、図面書けるから」。カルロスが応じ、Yは逮捕された。カルロスが情報源だと怪しまれないよう、ブラジルに滞在している期間中の検挙だったという。
これを機にカルロスは、X取締官から「エスになってくれないか?」と持ちかけられるようになった。カルロスは言う。
「じゃあ、俺に何をくれる? 俺はタダ働きなのか?って聞いたわけですよ。すると、『カルロスの関係先には一切、手を入れない。仕入れたものに関しては売ってもいいから』という話になった。これを聞いて、面白い話だな、まんざら嘘じゃないなと思ったんです」
麻薬取締官の交わした“密約”の内容とは?
このとき、X取締官と次のような密約を交わしたと、カルロスは説明する。
「おとり捜査として、3回目に俺が行く薬物取引で捕まえることになったんですよ。1回目、2回目の取引は泳がして。じゃあ1回目、2回目に行く取引っていうのはどうすんの? そのとき仕入れた物をこっちへ持ってくんの?って聞いたら、『こっちに持ってこられても事件として挙げなくちゃいけないから、売ってもいい』という。こういう密約があったんですよ。それをずっと続けてたわけですよね」
なぜ3回目という、回りくどいやりかたをするのか。そう尋ねると、エスだと疑われないようにするためだと説明された。
ただカルロス自身、口約束だけで信じたわけではないと言う。「仕入れた薬物のサンプルを見せてみたんです。それで、こいつら俺をパクるかなーと試したんですね。普通だったら、薬物所持で現行犯逮捕。でも、『こないだ話した通り、いいよ。そっちでやって』って。これが俺のメリットなんだなと思った」
こうしてカルロスは、麻薬取締官のエスとして行動するようになった。