麻薬取締部の関係者から「接触したい」と連絡が…
大阪刑務所にいたとき、警視庁の刑事が、ある事件で聴取したいことがあるとして、取り調べに来ることになった。罪状は「強盗殺人」だと聞き、面食らった。
何事かと身構えていると、現れたのは大学時代の同級生だった男性刑事。聞くと、八王子署の所属で、1995年7月に女子高生ら3人が殺害された未解決事件「八王子スーパーナンペイ事件」の担当をしているのだという。
中国でカルロスと活動し、死刑が確定していた暴力団員の武田輝夫が、ナンペイ事件の真相を知っているという情報が寄せられた――刑事はそう説明した。
なじみの同級生だったこともあり、カルロスは聴取に応じることに決めた。「北京で飲んでるときにね、俺も事件のことを聞いたんですよ。それで銃のこととか、聞いた話を刑事に伝えた」
2009年に警視庁は捜査員を派遣して武田輝夫を聴取。カナダ在住の中国人の男が実行犯を知っているとの供述を得た。その後、警視庁は男を旅券法違反で逮捕し、日本に移送させて大きな話題となったが、事件に直結する情報は得られなかったという。
この事件について供述を拒まなかったことで、事情を知る捜査関係者から協力的な人物として見られるようになったと、カルロスは言う。実際、2013年に大阪刑務所を出所した後、近畿厚生局麻薬取締部の関係者から「接触したい」と連絡を受けたという。
そこで、すでに密売人活動を再開させていた2014年7月、カルロスは自ら、大阪市の合同庁舎内にある麻薬取締部を訪問した。1階の受付で運転免許証を示し、入館証を渡された上で堂々と入室した。
そこで出迎えてくれたのが、ベテランの麻薬取締官だったXである。カルロスは52歳になっていた。
「エスになってくれないか?」
X取締官はカルロスに対し、他の密売人についての情報を求めた。カルロスは「じゃあ1つだけくれてやるわ」と、当時、金銭トラブル関係にあったYという密売人の名を挙げた。
X取締官たちは「お前、Yを知っているのか!」と色めき立った。カルロスは密売場所を全て教え、Yの顔写真についても「この男です」と署名して捺印。地図も渡されたので、詳しい拠点場所を指し示して署名、捺印した。さらにX取締官は、カルロスを車に乗せて拠点を案内させることまでしている。