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「恋人のバゲットに丁寧に丁寧にバターを塗って…」古舘伊知郎が目撃したアイルトン・セナの素顔《没後30年》

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 中嶋 プライベートのセナのことはあまり知らないけど、チームメイトとしてすごく気さくでいいヤツだった。初めてのサーキットに行けば、「このコースのここには気をつけろ」って、必ずいくつかポイントを教えてくれたんだよ。

中嶋氏 ©文藝春秋

 古舘 中嶋さんが1年目の時にセナは4年目。年下ながら先輩でしたもんね。

 中嶋 僕はライバルじゃないと思われているから色々教えてくれたんだとは思うけどね。ライバルのプロストにはそんなこと教えてないだろうから。

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 でもありがたかったのは、ブラジルで水の飲み方を伝授してもらったこと。会場で水が入ったカップが氷水で冷やされていたんだけど、水を飲むときカップの縁には絶対に口をつけるなって教えてくれたんだよ。

古舘氏(本人提供)

 木内 あ〜! それは僕たちも教わりました。

細かいヤツだなって思ったけど

 中嶋 そうでしょ? 氷水に使われている水はばい菌がすごいから、口をつけたらお腹壊すぞってことね。

 古舘 はあ〜。なるほど。

 木内 お昼ごはんも、生野菜はお腹を壊すから食べるなって教わりましたね。

木内氏 ©文藝春秋

 中嶋 細かいヤツだなって思ったけど、海外ではちょっとした食べ物で本当にお腹を壊すからありがたい助言だった。あとは、モナコGPの時に僕の手の皮が捲(めく)れてしまったことがあって、その時もパッドと包帯を持って来てくれたの。

 古舘 えー! 優しい!

 中嶋 しかも自ら、包帯を巻いてくれたんだよね。僕の手をとって。巻きが弱くてすぐ外れちゃったけどさ(笑)。

 古舘 それを聞いて思い出したんですが、89年か90年、モナコで本戦前日にフジテレビのスタッフとレストランに行ったら、奥の方の席にセナと当時の恋人がいたんですよ。2人で見つめ合いながら食事をしていたんですが、ふいにセナが女性の前にあるバゲットを取った。「え、奪って食べちゃうのかな」と思っていたら、セナがバゲットに丁寧に丁寧にバターを塗って、女性に差し出したんですよ。女性はにこっと笑いながら食べていて、なんて優しい人なんだって、見ているこっちが恥ずかしくなったんですよ。

 きっと中嶋さんに包帯を巻いている時も、丁寧に巻いていたんだろうなあ。

 中嶋 ははは(笑)。

本記事の全文「没後30年 アイルトン・セナよ、永遠に」は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h8150

 

本編(9000字)では、愛称「音速の貴公子」が生まれた舞台裏、中嶋悟氏が「セナ足」を認めないワケなどについて、さらに詳しく3人が語り合います。

文藝春秋

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