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「退職金3000万円超」は恵まれているのか

 次に退職金について。年金についてはほかの公務員と変わらないと述べたが、退職金に関しては自衛隊特有の加算がある。幹部(3尉以上)の退職金は約2700万円、准曹は約2100万円だが、それに加えて「若年定年退職者給付金」が支払われる。これはあけすけに言えば「年金受給開始までの期間の足しにするためのお金」の性格を持つ。すぐに再就職してもまず確実に給与が下がるため、年金給付まではその減少分を補填するという位置づけだ。

 この制度に基づき、1佐以下で退官した自衛官に対しては、退職金に加えて約1000万円が支給される。

 また2023年4月に国家公務員の定年を段階的に65歳に引き上げることなどを定めた改正国家公務員法が施行されたが、それに伴い、若年定年退職者給付金の支給算定期間もこれまでの「60歳」から「65歳」に引き上げられることとなった。必然的に今後は、若年退職者給付金の支給額は増加することが見込まれる。

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 それを前提として、2024年4月現在では、56歳・3佐(旧日本軍でいえば少佐、一般企業の課長クラス)・俸給44万8100円で退職する場合は、退職金と給付金を併せ約3900万円を受け取ることになる。56歳・曹長(一般企業の主任クラス)・俸給34万82000円の場合は3000万円ほどである。

「退官後は働かず、あとは年金で暮らす」というのは難しい

 民間大企業の平均退職金は大卒総合職で2563万9000円、高卒総合職で1971万2000円(中央労働委員会「2021年賃金事情等総合調査」)。国家公務員の退職給付の支給水準見直しによって自衛官の退職金も数百万単位で減少したとはいえ、自衛官は退職金だけでも大企業の労働者の平均よりも高い。

「退職金に加えて1000万円を支給する」と聞けばうらやましい話にも思えるかもしれないが、56歳定年とすれば年金受給までは9年、年間約111万円の上乗せにすぎない。当然すぐさま再就職する必要がある。

 さらなる注意点もある。それは、稼ぎすぎた場合には返納しなくてはいけない点だ。もともと、この若年給付費金の目的は、年金開始までの収入の補填にある。その趣旨に照らし合わせたとき、「若年給付金をもらわなくても自分で稼げるなら、渡したお金は返してね」と迫られるわけだ。また一度返納してしまえば、その後給与が激減したとしても再度もらえることはない。

 これと同じような制度が、老齢厚生年金にもあることをご存知の方もいるだろう。「年金だけじゃ不安だから働こう」と思って働くと、年金支給が停止されてしまう仕組みだ。この仕組みは「中途半端に働いて年金が減らされるくらいなら、もう働かない」と考える人を増やしているとして、しばしば批判の的ともなっている。

 また中には、「退職金があるし、再就職もしているから若退金は使ってもいいや」と散財したり、投資で失敗したりするケースもあるという。そのようなケースを差し引いたとしても、現代の多くの自衛官にとっては「退官後は働かず、あとは年金で暮らす」という生きかたは難しい。