近隣住民とは完全に没交渉であいさつをすることもなく、宅配便も玄関ではなく門の外で応対するほどの徹底ぶり。要塞化した自宅の異様な外観と男の態度からは、事件発覚を恐れ、ひたすら遺体を隠蔽し続けようという狡猾さが感じられる。

 関係者が証言するところによれば、この男の評判はすこぶる悪い。放課後に課外活動中の生徒のランドセルを校庭に放り出したとか、体育館の中に人がいるのに外から鍵をかけたとか、校内を巡回する際に棍棒のようなものを持っていたなど、周囲に対してかなり威圧的だった様子が見て取れる。

写真はイメージです ©AFLO

 ペットの猿を懐に入れて連れ回していたとの証言も残っており、とかく教員たちとはトラブルが絶えなかったようだ。誰もが「怖い」「気味が悪い」と口を揃える。

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 男は足立区区画整理課の担当者には「高齢の2人暮らしのため引っ越しできない」と言い、行政不服審査請求までおこない、自宅の明渡しを拒否していた。しかし、いよいよ立ち退きを拒否できない段階になっていた。

 このまま住んでいた家が取り壊されて更地になれば、それまでひた隠しにしてきた遺体が発見されることは避けられない。第三者によって発見されて騒ぎになる前に、みずから警察に出頭した……というわけだ。

当時は殺人事件の時効が15年、逮捕も勾留もできない「逃げ得」

 言い方を変えれば、区画整理の話がなければ、石川さんの失踪は“未解決事件”のままであった。

 現在でこそ、殺人罪の公訴時効は期間制限がないが、石川さんが殺害された当時には、時効期間は15年であった。真犯人しか知りえない事実を語る男が目の前にいて、物的な証拠も出てきた。にもかかわらず、警察は勾留することもできなければ、署に留め置くことさえできない。あくまで任意の事情聴取しかできず、事件の全容を解明することはできない。すでに時効を迎え、罪に問われないことを知っていたからこそ出頭したのである。

記者会見する石川さんの遺族 ©時事通信社

 石川さんの失踪という“未解決事件”は、足立区女性教諭殺害事件となり、犯人の自首によって解決を迎えた。

 だが、このような幕引きは、誰もが納得できるものではない。

 これほど狡猾な殺人犯を罪に問うことができないのだろうか。これでは完全な逃げ得だ。人を殺した人間が罰せられもせず、平然と生きているなんてことが許されるのだろうか。

 ところが、逃げ切りを確信した犯人の目論見は外れることになる。