篠原信一も渾身の切り返しを相手のポイントにされたことが…
振り返れば、柔道ではしばしば誤審騒動が起きている。
記憶に新しいのが、2000年シドニー五輪での100kg超級決勝だ。篠原信一とダビド・ドゥイエ(フランス)が対戦した。
試合が始まり1分半が経過したところでことは起こった。ドゥイエの内股に瞬時に対応した篠原は内股すかしで切り返し、ドゥイエが背中から畳に落ち、篠原は側面から落ちる形となった。
1本勝ちを確信した篠原はガッツポーズまで出した。だが試合は続行した。しかも、当時のルールにあったポイントの「有効」がドゥイエに入っていた。篠原の切り返しが、なぜかドゥイエのポイントとなったのだ。
最終的に篠原は敗れ、試合後に山下泰裕監督と斉藤仁コーチが抗議したが認められず、篠原は銀メダルに終わった。
後に国際柔道連盟はドゥイエの有効とした判定を誤審と認めたが、メダルはそのまま、篠原が金メダルを逃した結果は動かなかった。
この誤審は柔道界でも大きな話題となり、ビデオ判定の導入が進むきっかけになった。その後もさまざま改革が行われたが、それでも誤審騒動が消えなかった。
2015年の国際大会「グランドスラム東京」では、のちの東京五輪で金メダルを獲得しパリ五輪代表でもある男子81kg級の永瀬貴規が準決勝で韓国の選手と対戦。「足をとった」として反則負けを喫した。
それに対して日本代表の井上康生監督(当時)が下半身に触れていないとして抗議し、大会後にビデオを確認した結果、永瀬の無実が証明された。国際柔道連盟は永瀬に謝罪したが、やはり試合の結果が覆ることはなかった。関係者からはビデオを確認するジュリー(審判員)のレベルの低さを指摘する声もあった。
どれだけシステムを充実させても、運用する人間次第では…
つい昨年の世界選手権でも誤審は起こっている。
男子100kg超級決勝でテディ・リネール(フランス)とイナル・タソエフ(ロシア。中立の立場で参加)が対戦。ゴールデンスコアに入りタソエフがリネールの払腰をめくったもののポイントにならず、その後リネールが技ありを奪い優勝を果たした。
後に審判委員会は、タソエフにポイントを与えてしかるべきだったとして謝罪している。
これらに共通するのは審判の判断能力の問題であり、ビデオ判定導入後も、ビデオをチェックする立場の人間の能力にも疑問があることだ。どれだけシステムを充実させても、運用する人間次第では意味のないしろものにもなる。そして大会後に誤りを認めて謝罪はしても、ほとんどの場合は結果は覆らない。
永山の騒動によって、あらためて審判の力量や判定ミスが起きたときどう対応するのか、という課題が浮き彫りになった。明確に判定を行うにはどうすればよいのか、あらためて考えさせる契機ともなった。
唯一の救いは、永山が怒りや葛藤を飲み込んで、勝ち上がって勝ち上がって銅メダルを獲得したことだ。「自分の隙が生んだ負けです」ときっぱりと言い切る永山の姿には、柔道家としての矜持が漂っていた。