「トライアウトから1週間が経過し、どこからも声がかからないことがはっきりすると、パンフレットに目を通した妻から警察官の採用試験を薦められました。現役時代に自分が警察官になるなんて考えたこともありませんでしたが、『これだけ野球を頑張れたんだから、どんな仕事でも頑張れるよ』という一言が決め手になりましたね」

©文藝春秋 撮影・橋本篤

 警視庁警察官採用試験はトライアウトから2カ月あまりあとの17年1月だった。

 結果は一発合格。JR吉祥寺駅東口の交番が最初の勤務地だった。

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「道を尋ねられたり、ケンカが起きたら駆けつけるような“町のお巡りさん”」

「仕事の内容は、道を尋ねられたり、ケンカなんかが起きたら駆けつけるような、みなさんが想像される“町のお巡りさん”です。体力には自信がありましたし、不慣れな仕事を大変に思うことはありませんでした。野球選手時代は家を空けることが多く、子供が産まれたばかりだったこともあって妻には迷惑をかけていたんです。

 警視庁の警察官なら異動は都内だけですので家族への負担は少ない。ただ、夜勤の経験がなかったので、夜中に仕事することは当初、慣れませんでしたね。ただ、それも時間が解決してくれました」

©文藝春秋 撮影・橋本篤

 見ず知らずの人からも応援されるのがプロ野球選手なら、市井の人々に寄り添うのが警察官の仕事だ。交番勤務を終え、第四機動隊に配属されたあとは、即位の礼や東京五輪、G7広島サミットなどの警備も担当した。

「僕自身に抵抗はまったくなかったです。第四機動隊では花火大会など、それまで観客として参加していた会場を警備することもある。それはそれで新鮮でした」

 最も不安定なプロ野球選手という職業から、最も安定した公務員という職業へ。

 豪腕は転身を遂げた。