やってみたら、できてしまった

 イーロンにものすごく高いハードルを課され、ドラスティックに環境が変わったことで「できないと思っていたけれど、やってみたらできてしまった」という体験は増えていきました。

 最初の5週間はカオスで、私は気が狂いそうな状況でした。

 労働拘束時間も異常に長く、瞬時に決断を求められたり、実行を求められたりします。

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 カオスについていくために、頭はおそらく麻痺していたのだと思います。「イーロンに思想を合わせないと」「思考プロセスも合わせないと」と思って、精いっぱいやっていた。一方で、体はついていっていなかった。大量の鼻血を出すこともありました。

 それでもやはり、麻痺すると、人間というのは無理だと思っていたこともできてしまうものです。リストラで社員7800人が3000人になり、一度に1000人がいなくなったり、数百人がいなくなったりということが続きました。

X(旧Twitter)の屋上 ©getty

 2回目か3回目のリストラ時には、オンラインで一人ひとりの意思が確かめられました。「今後のTwitterにコミットする覚悟があるのかないのか?」。ある場合にはイエス、ない場合は返答しない。返答しない場合は自主退職とみなされる方式でした。今までのキャリアで経験したことのない方法で、瞬時に判断を求められますが、無理難題をぶつけられると、それに応えようと必死になります。

「能力があるかないか」というよりも「応える意思があるかないか」のほうが大きいのです。それさえあれば、意外とできてしまう。できるための解決策を探そうと、必死になればできてしまうものだと思うことが多かったです。

 イーロンがつねに言っているのは「とにかく俺は、強いやつしか残したくないんだ」ということです。それはつまり「棚を壊しても、それをまた作っていこうとする人」を彼は望んでいるということです。