2022年、Appleから広告出稿をいきなり止められたTwitter。世界を席巻するIT業界の巨人を相手に、イーロンはどうやってこの問題を解決したのか? Twitterジャパン社長としてイーロン・マスクと共に働いた笹本裕氏の新刊『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
◆◆◆
突然ティム・クックに会いに行く
Twitter Blueというサブスクリプションのサービスを立ち上げたのが、2022年の11月のこと。
このときイーロンは「月額8ドル。ただしiPhoneだと11ドルくらいになります」とアナウンスしました。つまり「iPhone税がかかるからね」と言いたかったのです。彼はそういうことをとにかく露呈させてしまいます。
「iPhoneはTwitterから手数料を取っている」ということを、顧客にも見せたほうがいいと思っています。そして「パソコンからであれば、PayPalの手数料が安いから、そこは還元します」というわけです。サービスプロバイダ側が負担をすることなく「手数料がかかっている」ということを、世の中に提示する。それはすごく正しいことだと思います。
ただ、これによってAppleとの関係が悪くなってしまいました。この件だけではないですが、あらゆることが重なって「Twitterに広告を出すのはブランドを毀損する危険性がある」ということで、AppleはTwitterへの広告出稿を止めたのです。
イーロンはどうしたか。
すかさず、Appleのトップであるティム・クックに会いに行きました。
私たちは何も聞かされていませんでした。イーロンのツイートを見て「え、ティムに会ったの?」という感じです。「今、Appleにいる」というツイートが突然流れてきて、驚きました。「何を話したのだろう?」と気になっていると、イーロンは「大丈夫、大丈夫。ティムとちゃんと話してきたから」と言って、間もなくAppleの広告が再開されました。
イーロンは、その成功体験で気持ちよくなりました。「直接話せばいいんだ」というのが、ひとつ実証されてしまった。
それでも他の広告主はまだ広告を止めている状態です。イーロンは、トップ同士が直接交渉することが解決策であると考えていました。「とにかく俺は誰に会ったらいいんだ?」と聞きます。みんなが「じゃあ○○さんと会ってくれ」と言うと何人かには会いに行きました。ただ、全員には会いに行けない。だから、Appleみたいにすべてが解決することはありませんでした。