「『イーロンに思想を合わせないと』『思考プロセスも合わせないと』と思って、精いっぱいやっていた。一方で、体はついていっていなかった。大量の鼻血を出すこともありました」。世界的経営者イーロン・マスクと働くというのは、どういうことなのか? 元Twitterジャパン社長の笹本裕氏の新刊『イーロン・ショック 元Twitterジャパン社長が見た「破壊と創造」の215日』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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社員全員がイーロンレベルになる可能性
イーロンは、本当は「1人で全部回したい」と考えているように思えます。
彼は人に気を使ったり、「あの人はこういうタイプだから、こう話さなきゃいけない」「こうやって向き合わないといけない」などと考えたりするようなことはありません。そんなことを考えていたら、多くの時間を浪費してしまいます。
そのようなイーロンに対して戸惑うのは、ツイープス(Twitterでは社員をツイープスTweepsと言いました)たちです。通常、トップはまわりにオペレーションができる人たちを置きます。その人たちを信頼して任せて、さらにそのまわりの社員を動かしていく。そういう組織構造があります。軍隊でも200人を超えると統率が取りにくくなると考えられているため、多くとも200人規模を単位としてそこにリーダーを1人配置するという考え方があるそうです。
しかし、イーロンは、1人の強いリーダーシップのもとで統率したいという考え方です。すると、小さな単位のリーダーがいないことによる犠牲を、ツイープスみんなが被ることになるわけです。
このやり方は乱暴なようですが、見方によっては「社員全員の思想や行動をイーロンレベルに持っていくことができる」という可能性もあるかもしれません。彼がそれを狙ってやっているのかはわかりませんが、イーロンが保有する他の企業でも同様の方針を取っているようです。
イーロンが1人でやろうとすることで、結果として、社員全員の判断力や決断力、実行力がものすごく上がるということも起きうるのではないか。何十年後かには、「イーロンのやり方は正しかったんだ」となるかもしれません。