1957年(114分)/ハピネット/4180円(税込)

 七月から九月上旬まで、大阪の名画座、シネ・ヌーヴォにて新東宝作品の特集上映が開催されている。

 せっかくなので、それに合わせて本連載もこの夏は新東宝の戦争映画を紹介していきたい。今回取り上げるのは『明治天皇と日露大戦争』だ。

 当時、新東宝はヒット作に恵まれずに危機的な状況にあった。そこで大蔵貢社長が乾坤一擲の大勝負に出て製作した超大作が、本作だった。

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 エログロや怪談など、なりふり構わない企画を次々と実現させていった大蔵は、本作でそれまでの日本映画における重大なタブーに挑んでいる。それは「天皇」。天皇を俳優が役柄で演じることは、まだ許される状況になかったのだ。だが大蔵は、ここで時代劇スターの嵐寛寿郎に明治天皇を演じさせた。そして、その話題性もあいまって本作は新東宝始まって以来の大ヒットを遂げることになった。

 天皇を主役に据えたことだけでなく、内容もまた挑戦的だ。この時期の戦争映画にしては珍しく、反戦的なメッセージやジャーナリスティックな視点はほとんど無し。

 タイトルのイメージ通りの徹底した復古調のムードで、「いかにして日本は暴虐かつ強大なロシア帝国を打ち破ったか」が描かれる。「敗戦国」であることがどうしても色濃く出る日本映画では数少ない、戦記映画だった。

 それだけに、人間ドラマよりも勇壮な戦場のシーンが物語の核を成す。黄海大海戦、旅順要塞攻防戦、奉天会戦、日本海大海戦――。日露戦争の主だった激戦を二時間弱の上映時間に全て詰め込み、しかもそれぞれに見応えあるスペクタクルを創出している。

 黄海では広瀬少佐(宇津井健)による命がけの奮戦に燃える。奉天では大量の軍馬や大砲をつぎ込み、さらに精巧に作られた城のセットを使っての市街戦や入城が描かれる。日本海では軍船のセットとミニチュア特撮を駆使して緊迫感ある映像が展開された。

 そして、なんといっても圧巻は旅順での二百三高地の激戦だ。広大な高地を埋め尽くす、突撃兵たちの無数のシルエット。大地を覆う、敵味方双方からの猛烈な砲撃と爆煙。そして冬の最終決戦では、ワイドスクリーン一面に広がる銀世界を血で染めながら、激しい死闘が映し出される。

 俳優陣では嵐のカリスマ性も素晴らしいが、新東宝の若手陣も目を見張る。宇津井、丹波哲郎、天知茂、若山富三郎らの青さの残るハイテンションな芝居が、戦況や戦場のひっ迫を生々しく伝えていた。

 DVDも出ているが、この迫力はスクリーンで味わってほしい。夏休みを利用して、ぜひ大阪で新東宝三昧を!