1954年(102分)/国際放映/2750円(税込)

 今年も、八月十五日が近づいてきた。それは、日本にとっての「敗戦の日」だ。

 教科書的には「ポツダム宣言を受諾して無条件降伏した」と表現されるが、それで片づけられる話ではなかった。史上最大の戦争が終わるのだから、簡単に済むはずがない。

 そこで今回と次回は、戦争を終わらせることの困難さを描いた作品を取り上げる。

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 まず今回は『日本敗れず』。不穏なタイトルだが、本作が描くのはまさに、日本の敗戦を認めたくない人々の物語だ。

 題材は「宮城事件」。戦争続行を望む陸軍・近衛師団の青年将校たちによる、玉音放送の録音盤奪取を狙うクーデター未遂である。なお、同じ事件を扱った六七年の映画『日本のいちばん長い日』では登場人物は実名だったのに対し、本作は戦後十年に満たない時期の製作だったのもあり、全ての人物が仮名になっている。

 前半で降伏決定までの閣議の紛糾、後半で宮城事件という構成は『日本のいちばん~』と同じだ。が、大きく異なる点がある。それは、描かれる社会階層だ。『日本のいちばん~』は八月十五日前後の政府と軍部の動向にのみ焦点を絞ったが、本作は違う。

 物語は戦中末期の東京大空襲から始まる。燃え盛る建物、人々の阿鼻叫喚、一夜明けて川に浮かぶ死屍累々。さらに本土決戦に向けての臨戦態勢下での貧しい暮らし――と、まず庶民がどのような窮状にあったのかを克明に追っているのだ。これは『日本のいちばん~』にない視点だ。

 こうした描写を経たからこそ、それでもなお本土決戦に執着する青年将校たちの狂気が鮮烈に浮かび上がった。

「たとえ大和民族が絶滅したっていいじゃないか。国体を護るために殉じた精神は、世界史の一ページを飾る」

 平然とそう言ってのける集団を演じるのは、安部徹、丹波哲郎、沼田曜一、宇津井健、舟橋元ら。後に貫禄たっぷりの名優となる彼らは、若い頃から迫力十分で、そこに居並ぶだけで強い圧力を放つ。それだけに、彼らに迫られる陸軍大臣(早川雪洲)の葛藤が切迫感をもって伝わってくる。

 ただ、そんな面々を凌駕するのが、外務大臣役の山村聰だ。戦争継続を求め詰め寄る軍令部や青年将校たちに動じることなく、こう言い放つ。「どんな名作戦ができても、防空壕に難を避けるのは軍です。外で逃げ惑うのは国民ばかりです」「屈辱のない降伏はない。八千万人の命を救うためには、屈辱もまたやむを得ないと私は考える」

 どこまでも冷静に、温和に、それでいて頑として譲らない。そんな山村の姿は、平和への信念が、戦争への狂気を撥ね除ける尊さを具現化していた。