右目と左目で視ている世界がまったく別々。左の視界は一部が欠けている。世にも珍しい視覚障害を抱えながらも、俳優として着実に歩みを進める男性がいる。古川時男、32歳。

 日常生活にも困難を抱える彼は、ただでさえ厳しい世界である俳優の道をなぜ目指そうと考えたのか。そして、障害者がどのようにドラマ、映画界に関わっていくべきだと考えているのか。同氏の思いを聞く。

 

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視覚の一部を失ったことによって音に敏感になってしまった

――視覚障害は現在も残っているとのことですが、生活においてどのような不便さがあるのでしょうか?

古川 右目の映像と左目の映像が別々に映し出されていて、ある部分で合わさっているような絵を視ているんですよね。

――なかなか想像しづらい世界ですね。

古川 たとえば、目の前の男の人の頭を車が通り抜けていったり、すぐそこにいる女性のお腹あたりに右にいる子どもの顔の残像が見えたり、現実にはあり得ないものが見えているんですよね。

 

――それでも、今は地元を離れて俳優という夢を追いかけ続けていらっしゃる。ご両親は心配されたのではないでしょうか?

古川 まさしく、その通りとても心配されました。東京は人の往来が盛んじゃないですか。「そんな環境で生活していけるのか?」と何度も言われました。実際、上京した当初は、あまりの人の多さと、それによる視界の気持ち悪さで目眩を起こしてしまって。

――他にも生活における不便はあるのでしょうか。

古川 視覚の一部を失ったことも不便ですが、それによって音に敏感になってしまったこともまた、弊害かもしれません。

 その人がどんな気持ちで発した声なのかを過剰に感じ取れてしまうんです。

 ある食事の席で飲み物をこぼしてしまって、同席者に「見えてないんじゃないですか」と言われたとき、動悸がするほど動揺しました。声の響きから、こちらを心配してくれているのではなく、蔑みで言っているように感じられたんです。考えすぎだと思われてしまうかもしれないのですが、自分にとって、他人から「変だ」「おかしい」と思われることは耐え難い苦痛なんですよね。