混乱のさなか、バイトリーダーは悠々と休憩に消え、経験の浅そうな常勤バイトの青年がひとり残って「俺こんなん回せないよお~」と弱音を吐いている。私も回せないよお~(泣)と思った。
ただの1秒も立ち止まることのできる時間はなく、みっちり3時間。少し落ち着いてきた午後7時ごろ、とある客が「コーヒーしか頼んでないのにPayPayの支払い額が高すぎる」と、戻ってくる事件が発生。私の働いている時間のどこかで来店していたようだが、会計は任されていないし、どこに座っていたのかも覚えていない。
記憶はないのに、明らかに自分の落ち度が原因でこの客は怒っている気がする。バイトリーダーが会社と電話しながら対応に追われているのを見て、とても申し訳ない気持ちになった。
タイミーさんもメルカリさんも、ミスをしても全然怒られない。周りが淡々と尻拭いするだけだ。次回があるかわからないタイミーさんに指導しても無駄だし、そもそも流浪のタイミーさんを怒ったが最後、そのタイミーさんは二度とその店に応募しないだろう。
店を回さなきゃ、シフト融通しなきゃ、そんな責任を負わされないのがタイミーさんだ。期待されず、いるだけでありがたがられ、仕事自体からもいつでも逃げられる。しかしバイト青年によると、週末の殺人的な混雑の店を支えているのは、何度も応募してくる顔馴染みのスポットアルバイターたちでもあるのだという。
スポットバイトの誘惑は、働き手だけでなく雇用者側も魅了する。従来のように店が特定のバイトを雇用し続けるメリットは最早ないんじゃないだろうか。アルバイターの中でタイミーさんが主流になる日は近いのかも。非正規雇用の流動性が1日単位まで高まって、応募と採用を繰り返すのが当たり前の世界はどうなるだろう。
店とバイトには相互に「高評価」「低評価」をつけ合う評価機能がある。そのうち、優秀なタイミーさんを雇えるホワイトで高時給な店と、低評価のタイミーさんしか掴まえられない質の悪い店の差が広がりそうだ。
雇用先との信頼関係を前提にした信義則は崩れ、店の内部事情が暴かれるリスクも上がる。柄にもなく、労働市場の未来を憂える気分になる。
それもこれもこの日は一日働いてヘトヘトになったから。お盆を持ち続けた左腕が痛い。新しい仕事は1日ひとつが限界かもしれない、と思った。
(バイト代:時給1150円 交通費330円 計4930円)