これほど二ツ目に注目が集まるというのも珍しい
東出 最近は鈴本(演芸場)の早朝寄席だったり、末廣(亭)の深夜寄席だったり、二ツ目の噺家さんにも注目が集まって、ちょっとしたブームになっていますよね。噺家さんは前座から始まって、二ツ目、真打って「出世」していくものですが、これほど二ツ目に注目が集まるというのも珍しいんじゃないですか?
喬太郎 17〜18年前にもそんな感じのときがあったんですよね。ブームというほどではなかったけど、たい平兄さんと僕が二ツ目最後の末廣深夜寄席に出たときに、1階がいっぱいになったんです。自画自賛みたいで口はばったいけど、その時に、真打昇進で抜いた本来の先輩方何人かが「たいちゃんと喬ちゃんがせっかく客を集めてくれたんだから、このまま行こうぜ」と、池袋で二ツ目の会を始めたことがありました。
東出 そうなんですか!
喬太郎 でも、今みたいに末廣の深夜寄席とか鈴本の早朝が満員になるなんて考えられなかった。ぼくら二ツ目の初期のころは、末廣の深夜は毎回、ワリ(ギャラ)をもらえましたけど、鈴本では、番頭役が半年分プールしておいて、半年後に高座の回数でもって均等割りにしないと、とても渡せなかったんですよね、お客が少なすぎて。それが僕が番頭になった二ツ目の途中ぐらいから、そろそろ毎回、少しならなんとか渡せるんじゃないかという具合になった。
末廣亭から新宿三丁目の駅まで並ぶほど
東出 今だと、二ツ目会に行列ができていますよね。
喬太郎 芸術協会の「成金」っていうユニットの連中、彼ら中心に脚光を浴びてますよね。いまの深夜寄席なんて、下手すると本興行より入っていたりするわけですよ。ディズニーランドみたいに、新宿三丁目の駅まで並ぶんですもん。だからいまの二ツ目さんは落語で食えちゃうんだけど、逆にそれが怖いですね。
東出 怖い、というと?
喬太郎 この状態にあぐらをかいちゃうと、絶対落ちちゃうときがくる。なんか、うるさいことを言うようでイヤなんですけど、気をつけてほしいって思いますね。
東出 ファンのほうは若手を発掘したいのか、とにかく二ツ目ブームって面白い現象だなあって思います。
喬太郎 ドラマや漫画や、若手の活躍もあって、たとえ熱心なファンでなくとも「落語って面白い」って興味を持っていただいているのは、本当にありがたいですよ。だって高校生が「一之輔さん面白い」「白鳥さん面白い」って言うなんて、昔なら考えられないですよ。
後編 東出昌大が柳家喬太郎に聞く「真打になるということ」http://bunshun.jp/articles/-/7276 につづく
写真=佐藤亘/文藝春秋
やなぎや・きょうたろう/1963年、東京都生まれ。書店員を経て、89年、柳家さん喬に入門。2000年に真打昇進。創作新作落語に『ハワイの雪』『ハンバーグができるまで』『夜の慣用句』など。5月5日から舞台『たいこどんどん』(紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA)に主演。
ひがしで・まさひろ/1988年、埼玉県生まれ。高校時代からモデルとして活躍し、2012年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。フジテレビ系ドラマ『コンフィデンスマンJP』に出演。また主演映画『OVER DRIVE』(6/1公開)、『寝ても覚めても』(9/1)が公開予定。Eテレ『落語ディーパー!』が5月6日(日)0:00〜0:50 放送予定。