「敵は変わり得ない敵だ」。オリンピックがすでに始まっていた8月2日、北朝鮮の金正恩総書記は韓国に対する敵意をむき出しにした。
韓国メディアを「敵のくずメディア」と非難するなど、北朝鮮の人々の韓国に対する憎悪を掻き立て、韓国文化に触れさせたくない思惑がありありと見て取れる。しかし、遠く離れたフランスで開かれているパリ五輪では、そんな最高指導者の計算を狂わせる事態が起きていた。
最初の“事件”は7月30日(現地時間)に行われた卓球混合ダブルスの表彰式で起きた。北朝鮮のリ・ジョンシク、キム・グンヨンペアは初戦で日本の張本智和、早田ひなペアを破るとその後も勝ち上がり、銀メダルを獲得した。
パリ五輪では、表彰台に上がった選手たちは、自分たちの写真を撮る「ビクトリー・セルフィ」の機会が与えられる。そこで銅メダルの韓国の男子選手がメダリスト全員での撮影をしようとした時に、北朝鮮のペアが拒まなかったのだ。男子のリ選手は硬い表情を崩さなかったが、女子のキム選手は笑顔も浮かべていた。
2011年7月に脱北した韓国・北朝鮮研究所の金日奕研究員(29)は、こうした北朝鮮選手団の振る舞いについて「北朝鮮は最低限度の他国選手との交流を認めているものの、韓国選手とは絶対に交わるなと指示しているようです」と語る。
たしかに北朝鮮の選手は韓国の選手だけでなく、韓国記者団の質問への回答を拒否したり、選手とメディアのミックスゾーンでの韓国記者の問いかけを無視したりしている。
他国選手とともに自撮り
とはいえ、今回の五輪では、本来最低限しか認められていない、他国選手との交流も目立った。6日の女子10メートル高飛び込み決勝では、北朝鮮のキム・ミレ選手が銅メダルを獲得。表彰式の「ビクトリー・セルフィ」で、韓国サムスン製のスマホを渡されたキム選手はさすがに困惑した表情になったが、スマホを中国人選手に渡すと、最後は一緒の自撮りに収まった。
金日成主席のフランス語通訳を務めた元韓国国家安保戦略研究院副院長によれば、北朝鮮の人々が国際試合や外交協議などで国外に出る場合、必ず行動の対処方針が決められ、不必要な交流や資本主義に染まるような行動は糾弾される。
特に、北朝鮮が激しく対立している日本、米国、韓国との接触は非常にデリケートな問題になる。